東電が原発事故で「初の謝罪」に追い込まれた事情 従来の方針を修正、6月17日に注目の最高裁判決

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原告弁護団幹事長の米倉勉弁護士も、「不十分な点として、東電が仙台高裁の判決を真摯に受け止めるという態度を示さなかったことがある。(具体的には)津波対策を先送りしたために、事故を発生させたという事実を(文面で)認めていないことがある」と述べた。東電の謝罪文では、原発事故について「防げなかった」と記述されている。

小早川社長が謝罪の場に姿を見せず、経営幹部が代読したことについて、原告団副団長の國分富夫さんは「社長が謝罪に来ないというのは常識的には考えられない」と記者会見で怒りをあらわにした。

東電はなぜ軌道修正したのか

もっとも、判決が確定したケースであるとはいえ、「数多くの同種の訴訟が地裁や高裁で継続している時点での謝罪表明は異例とも言える」(小野寺利孝・原告弁護団共同代表)。

建設アスベストやじん肺など数多くの公害訴訟で弁護団長を務めてきた小野寺弁護士によると、「それらの訴訟では(すべての訴訟に関して)全面解決の合意とともに謝罪が表明されているのに対して、東電はすでに賠償を払い過ぎているなどとして、後続の訴訟で争い続ける姿勢を示している。そのことが、今回の謝罪での東電の表現のあいまいさに現われている」という。

不十分な内容ではあるものの、東電はなぜ従来のかたくなな姿勢を軌道修正し、謝罪表明をしたのか。

理由の1つとして、高裁の判決文で厳しく批判されたことに加え、避難者訴訟の原告が避難指示区域に居住していた住民で構成されていることが挙げられる。

原告は国の避難指示によって住む場所を追われ、今もなお、多くの人たちがふるさとに帰ることができない。避難生活が長引く中、廃炉作業を進める東電が地元住民の要求をないがしろにすれば、廃炉作業で必要な施設の設置や用地確保の同意取り付けなどをめぐり、県や地元自治体との関係が悪化しかねない。

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