売れっ子鉄道デザイナー、人気の鍵は「聞き上手」 川西康之さん、駅・船の次も鉄道分野で注文殺到
結崎駅のリニューアルにあたっても、川西さんは「町の未来を決めるのは住民」と考え、住民と意見交換をする「結崎駅フューチャーセッション」を繰り返し実施した。住民たちにほかの駅の事例を紹介すると、「結崎駅にもこんなものがあるといい」といった声がたくさん集まった。多彩なイベントが開催できる広場を作ってほしい。町のシンボルとなるような駅舎がほしい。バリアフリーに対応した歩行者空間を確保してほしい。そして何より、駅前を単なる通過点ではなく、心地良い場所にしてほしい。
川西さんは住民たちの要望を「見える化」した。普通の駅は駅前にバス乗り場があるのに、結崎駅はいきなり公園がある。これが「川西マジック」だ。「懐かしくて新しい駅を目指した」と川西さんは話す。当初は橋上駅として検討されていたが、高齢者や体の不自由な人の使いやすさを考慮して地上に駅舎が設置された。
駅舎とトイレの建物は奈良県で古くから見られる「大和棟」という建築様式を取り入れつつ、内部のインテリアは「超モダン」。待合室はガラス張りにして駅の外からでも電車が通り過ぎるのが見えるようにした。「電車に乗る以外の目的で駅前に人が集まれば、駅周辺の価値が向上し、商業も活性化し、便利で安心な町になる」。
住民たちの意見が反映されて造られた駅と広場。自分たちが制作に関わったとなれば、そのオープニングにこれだけの人が集まるのも当然だ。
小澤町長に「川西町の観光資源は何か」と尋ねてみたら、「能楽観世流が発祥した地です」という答えが返ってきた。これからは川西デザインの駅舎と広場が新たな観光資源になる。
一方、駅周辺には未開発の土地もあり今後の開発を控えている。このにぎわいを一過性のものにしてはいけない。川西さんは「今日はゴールでなく始まりの日」と気を引き締める。
「鉄道に比べ住宅に近い」船のデザイン
川西さんは船のデザインも手がけている。今年3月、世界初の内航電気推進タンカー「あさひ」が竣工した。川西さんは内外装のデザインを担当している。
「鉄道と比べると、船は大きい分だけ住宅に近い」。川西さんは鉄道デザインと船舶デザインの違いをこう表現した。内航タンカーといえども、一度出港すると長ければ2週間も船に乗りっぱなしになることもある。確かに住宅並みの居住空間は必要だ。
しかし、乗組員に話を聞くうちにやはり課題が見えてきた。船内は機能性が優先され、快適性はなおざりとなっていた。トイレや風呂は共同で、女性が快適に働ける職場とはとてもいえない。また、共用スペースが狭いためくつろげないし、船員同士のコミュニケーションもままならない。「コミュニケーションの悪さはチームワークの乱れにつながる」。しかも共用スペースには太陽光が入ってこない。「日が差さない家などありえない。職場環境が悪すぎる」。
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