売れっ子鉄道デザイナー、人気の鍵は「聞き上手」 川西康之さん、駅・船の次も鉄道分野で注文殺到

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「今からおよそ6年前、川西さんの名前が今ほど有名でなかった頃、当町の出身ですごい建築家がいると話題になったのです」と、小澤晃広町長が、川西さんに白羽の矢が立った理由を振り返る。

6年前というと雪月花が登場した時期だが、その頃の川西さんは車両よりも駅デザインで注目を集めていた。たとえば、土佐くろしお鉄道中村駅のリノベーション。そのデザインは地場産のヒノキを用いた、凛とした美しさを感じさせる。だが、川西デザインの凄みは、完成物そのものよりも制作前のプロセスにある。

着手にあたって川西さんは何度も地元に足を運び、多くの住民から意見を聞いた。その結果、見えてきたことがある。中村駅で最も多い利用客は高校生だ。彼らは高校を卒業すると都会に出ていってしまう。地元に残って就職した生徒はその後マイカー通勤に転じ、地元の鉄道を利用しなくなる。全国の地方鉄道が抱えている現実であり、仕方がないのかもしれない。

高校時代に「鉄道で最高のおもてなし」

だが、川西さんは違った。「鉄道を利用している高校時代に、鉄道で最高のおもてなしをしてあげたい」。

川西さんがデザインした土佐くろしお鉄道中村駅の待合室(写真:(C) Yasuyuki KAWANISHI + ICHIBANSEN / nextstations)

待合室の窓際に長いテーブルといすを配置したところ、待合室で自習する高校生が目立つようになった。高校生が勉強しているので、他の利用者も待合室で無秩序に騒ぐことはなくなった。壁際のいすはあえて背もたれが伸びる構造にした。座る人の姿勢が良くなる。こうした設計で、待ち時間の質が上がった。さらに改札口をなくして出入り自由としたことで、地域の幼稚園や保育園の子供たちが発着する列車を見学に来るようになった。

「都会に出た彼らには通勤ラッシュにもまれるつらい日々が待っている。でも、もし中村駅で勉強した3年間は楽しかったなあと思い出してもらえたら、こんなにうれしいことはない」(川西さん)

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