売れっ子鉄道デザイナー､人気の鍵は｢聞き上手｣ 川西康之さん､駅･船の次も鉄道分野で注文殺到

あさひは全長62m、総トン数492トン。本来、このクラスの船では十分な居住空間を確保できない。しかし、あさひはバッテリーを動力源として推進するEVタンカーであり内燃機関がない。そのため機関室がコンパクトになり余剰スペースが生まれた。そのため、一部の個室に専用シャワーを設置することができた。さらに、廊下を取り除くことで、大きな吹き抜けがある空間が生まれた。ここだけ見れば、まるで客船のようだ。もちろん、自然光が注ぎ込む窓もある。

「あさひ」船内の吹き抜けに設置した大型の書棚（記者撮影）

このスペースは住宅でいえばLDK（リビング・ダイニング・キッチン）に相当する。対面キッチンのほか、6人がけのテーブルも置かれた。「船内にこれほど大きなテーブルはなかなか置けないですよ」。船員たちが自室にこもらず、ここで活発にコミュニケーションしてほしいという配慮だ。

吹き抜けには2層にまたがる大型の書棚が据え付けられた。ここに趣味の本などを並べれば、憩いの場になりそうだ。「船員さんたちが日本の物流を支えている。待遇が改善されて若い人が定着するようになってほしい」。わが家のようにくつろげる空間を目指したというあさひはその先駆けとなる。

「やくも」の新車も？

川西さんは現在いくつもの案件を抱えて、日本全国を新幹線で駆け回る日々だ。すでに発表されたものでは、JR東海道線の三ヶ根駅の改修計画や近鉄が2024年秋に投入する新型一般車両のデザインがある。

近鉄の一般車両デザインでは数十人のモニターが実際に車両に乗り込んで、普段から通勤車両について不満に思っている点や良い点を付箋に記入して、車内の当該箇所に貼り付けた。「そこで得られたニーズに優先順位を付けて可能な限りデザインに反映させた」。登場予定の車両はロングシートとクロスシートを転換できるなどの特徴を持つが、いちばんの売りは、1両当たり2カ所設置されるベビーカーや大型荷物対応のスペースだ。

近鉄新型通勤車両の内装デザインイメージ（画像：近畿日本鉄道）

単なるスペースの設置なら最近の列車では当たり前だが、このスペースに座席を付けたのは日本初。このスペースを利用する母親は赤ちゃんを抱いて座ることができるのだ。川西さん自身、近鉄から相談を受けた頃に子供が生まれ、どこに行くにもベビーカーが必須という状況で、「ベビーカーを載せやすい電車を造らないと子育てしやすい沿線にはならない」と痛感した。「混雑する車内ではベビーカーを持ち込む母親が邪魔者扱いされることが多い。こうしたスペースを作ることで堂々と乗ってほしい」と川西さんは願う。

「鉄道最前線」の記事はツイッターでも配信中！最新情報から最近の話題に関連した記事まで紹介します。フォローはこちらから

さらに、JR西日本が山陰・山陽エリアを結ぶ特急「やくも」として開発中の新型車両。デザイナー名は公表されていないが、そのイメージ図はどこか川西デザインを想起させる。

5月20日に開催されたJR西日本の決算説明会で長谷川一明社長に「やくものデザインは川西さんが担当するのか」と尋ねたところ、長谷川社長と周囲にいた同席者の間で「川西さん？」「たぶんそうだと思います」というやりとりがあった。「たぶん」という言葉が気になったのであらためてJR西日本に問い合わせたところ、「まだ決まっていないが何らかの形で関わっていただくことになりそうだ」との回答があった。運行開始は2024年。その詳細はもうじき明らかになる。

著者フォローすると、大坂 直樹さんの最新記事をメールでお知らせします。