エジプトの正念場はこれからやってくる イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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そうした事態を懸念する根拠はある。イスラム主義者は非民主的というよりは、反リベラルな傾向を有しているからだ。権威主義的な政府では、経済面などで、ある程度自由を許容することができるが、反リベラルの大衆迎合主義的な体制ではそれは難しい。また、現在のエジプトの反乱からリベラルな権威主義が生まれる可能性は小さい。そのため、選挙を実施できず、暴力的な弾圧が行われるか、他の反リベラルな権威主義的体制が取って代わることになれば、今より事態は悪化するだろう。

エジプトはイランやアルジェリアとは違うので安易な比較をすべきではない。ただ、民主主義への願望が宗教的な過激主義に屈したとき、何が起こるか予想することは可能だ。92年のアルジェリアのクーデターでイスラム主義者が弾圧された後、激しい内戦が勃発し、20万人に及ぶ人々が殺され、内戦はいまだ完全には終結していない。

選挙でムスリム同胞団が勝利するかもしれないし、敗北するかもしれない。それはエジプト人が選択すべきことである。その自由を否定すれば、事態はさらに悪化し、多くの人が恐れるような宗教上の過激主義が高じることになるだろう。

Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。


(週刊東洋経済2011年2月26日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

photo:Sherif9282 CC BY-SA
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