「熊本の地元紙」サッカー部暴力報道で見せた執念 秀岳館問題でスクープ連発、熊日新聞の舞台裏

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一方、熊日はこのころから、冒頭でも触れた「もうひとつの事件」についてもつかんでいた。今年4月に入学するはずだった中学生が3月末に上級生から暴行を受け、サッカー部からの退部を余儀なくされ、4月5日には警察に被害届が受理されていた件だ。

八代支社の記者は学校側に取材を続けていたこともあり、退部した生徒の問題に関しては、裁判所にいた司法キャップの植木記者が関係者取材を担当することになった。

「3月にサッカー部内で入学前の生徒への暴行事件が起き、保護者によって被害届が出されていたにもかかわらず、今度は4月にコーチが生徒に暴力をふるい、その動画が大問題となったわけです。教える側の大人の感覚がマヒしている、コーチや監督の個人的な問題では済まされないと感じました」

5月5日にようやく学校側の記者会見が行われた

ここから、本筋の「コーチによる生徒への暴行」と「先輩部員による後輩への暴行」の2チームに分かれての取材体制になった。そして、27日付朝刊の1社面に二段見出しで「上級生が暴行か 入部控えた中学生の保護者、警察に被害届」とスクープした。中学生は後頭部や背中を殴られたうえに、「殺すぞ」と罵倒されたと、被害届を出している。

この熊日のスクープ記事はヤフートピックスにも掲載され、5000件以上のコメントがついた。さらにこれを受け、県政担当記者が蒲島郁夫・熊本県知事を取材。相次ぐ暴力に対し、知事の「あってはならない」とのコメントを引き出し、報じた。

こうした中、5月5日に学校側の記者会見がようやく行われた。熊日は同日夜に「部員謝罪動画の顔出しと実名、監督が指示 秀岳館高が会見 暴行ほかにも38件」とデジタル配信。監督がテレビでついたうそも暴かれるとともに、わずか2年以内にサッカー部で起きた暴力行為が38件で、職員から部員への暴力25件、部員同士の暴力が13件と実態が数字で示された。6日付の朝刊は1社面で、8日には社説でも取り上げた。

次ページ動きが遅かったために、逆に病巣を顕在化させる時間を生んだ
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