蛇口からハイボール「蛇口酒」の店が人気化のワケ コロナ禍で変化する「飲みスタイル」
飲みスタイルの変化
外食、内食ともに「蛇口酒・コック酒」が盛況。自分で注いで、自分で楽しむ─―。そんなパーソナライズされた飲みのスタイルが広がりつつある。
「コロナに入る直前くらいから、飲食店はただお腹を満たすためだけの場所ではなくなってきていると感じていました。焼き肉業態は、自分で焼いて召し上がっていただくという形式でしたが、これからはよりお客様が体験を求めていくだろうと。卓上にハイボールの出るサーバーを設置することで、一層楽しんでいただけると思いました」
と話すのは、外食における「蛇口酒・コック酒」の先駆的存在である『大衆ジンギスカン酒場 ラムちゃん』を経営する、一家ダイニングプロジェクト広報部・片岡有紀子さん。同店は、全卓に『サントリーウイスキー角瓶』を使用した超高圧炭酸ハイボールサーバー(お店ではタワーと呼んでいる)が設置されており、手前に引くとハイボールが、奥に倒すと超高圧炭酸が注出する仕組みになっている。『レモンサワーの素』を頼めば、レモンサワーも自分で作ることが可能だ。価格は、60分1人550円(税込み)。この価格帯での注ぎ放題に注目が集まっている。
ハイボールを選んだのにもワケがあるという。
「若者を中心に、“お酒離れ”や“ビール離れ”という状況が進んでいました。また、健康志向の高まりもありました。高タンパクのラム肉に、低糖質であるハイボールをじかに注げるお店なら、健康志向の方にもマッチしますし、体験としても楽しんでいただけるのではないかという狙いがありました」(片岡さん)
といっても、60分550円という価格設定は衝撃的ですらある。同店のラム肉は、臭みもなくやわらかく食べやすいため、1人ジンギスカンを楽しむ人も多い。ラム肉との相性もよく、「みなさん、4~5杯は飲まれます」と片岡さんが話すように、ぐびぐびとハイボールを飲んでしまうこと必至だ。冒頭の男性は、「8杯は余裕っすね!」と目を輝かせていた。ぶっちゃけ、飲まれすぎると店側は困らないのか?
「たしかに飲まれすぎると……(苦笑)。ですが、提供しているお肉に自信を持っていますので、飲み放題ではない部分を含め、工夫次第で利益を出せるようにしています」(片岡さん)
「ハイボールやレモンサワーは、お店で提供するアルコールの中でも原価率が低く、飲み放題との相性がいい」
と話すのは、調達・購買業務コンサルタントで、未来調達研究所所属の坂口孝則さん。
「アサヒビールを基準とした数字ですが、生ビールの場合、19リットルで価格は約1万円。チューハイは、19リットルで約6300円。ハイボールは、10リットルで約5500円です」
店舗によってジョッキ容量やお酒と炭酸の配分は変わるだろうが─、と断りを入れたうえで、
「生ビールを、一般的といわれる350mlに換算すると、ジョッキ単価は184円。お店での販売価格を550円とした場合、原価率は33%です。一方、チューハイ、ハイボールは、ジョッキ容量を250mlとすると、前者のジョッキ単価は83円、後者は138円です。同じく販売価格を同じ550円に設定すると、それぞれの原価率は15%、25%になります」(坂口さん)
もちろん、価格や時間といった飲み放題の設定次第によって原価率は変わってくる。だが、ビールと比べると、1杯当たりの原価率は安価であり、卓上サワーの飲み放題が増えている一因になっていることは間違いない。