学習する組織 現場に変化のタネをまく 高間邦男著
売れるビジネス書は読みやすい。内容が軽く理解しやすい。ただしよく考えてみると、あまりにも陳腐であり、時には捏造としか思えない内容もたくさんある。
本書は読みやすい本ではない。著者は「はじめに」で「組織の中にいて組織を変えていきたいと思っている人と、居酒屋で一緒にその方法について語り合う(ダイアログ)ような内容にしたかった」と記し、実際に対話のような思考の流れで書かれているが、多くの人は読み終えるのに時間を要すると思う。ただし内容は豊富で示唆に富んでいる。
「学習する組織(ラーニング・オーガナイゼーション)」は、MITのピーター・センゲ著『The Fifth Discipline』(1990年)が米国でベストセラーになってから普及し、現在では欧米ではマネジメントの基本理論になっている。
ただ注意しておきたいのは「学習」は、社員研修のような座学による「勉強」の意味ではない。
本書の「学習」は、「経験や環境の変化に対応して、自ら新たな知識・技術・行動・思考・態度・価値観・世界観を獲得したり生成したりすること」を指す。教えられるのではなく、自らが自律的に獲得し、生成するのである。いかにして? 「ダイアログ」がカギである。
ダイアログ(dialog)は対話という意味だが、一対一の対話ではなく、関係者がオープンで探求的な話し合いを行うものだ。GEの「シックスシグマ」でもトヨタの「カイゼン」でも、話し合いから組織の強化、改善が始まる。
以前の日本企業でも話し合いの伝統はあった。上司と部下のノミニケーションも、内容によってはダイアログだったと思う。ただしこの10年間で日本企業では話し合いの伝統はすっかり影を潜めた。
職場から雑談が消え失せ、社員はパソコンに向かって黙々と仕事をしている。声が聞こえず、何をやっているのかわからない。
だから組織を変革するためには、話し合いのスキルを持つことから始めなくてはならない。本書にはそのためのアプローチ手法が丁寧に紹介されている。「組織変革」という抽象的なお題目にとどまらず、本当に変革していくためには学習する組織にならなければならない。
組織戦略、人事戦略の用語はカタカナが多い。本書にもたくさんのカタカナ用語が出てくる。目次にある用語を取り上げてみよう。
スポンサーシップ、チェンジ・エージェント、コアチーム、ギャップアプローチ、プラス思考アプローチ、イノベーション、システムシンキング、エンゲージメント・サーベイ、リアルワーク、コンピテンシー、ナレッジマネジメント、ビジョン、ゴール、バリューetc….
カタカナが多い理由は、経営学や組織戦略論のほとんどがアメリカ発だからだ。ただ日本では定義されないままに使われることが多い。たとえばコンピテンシーとスキルとナレッジはどこが違うのか? ビジョンとバリューの違いは?
本書はカタカナ用語を使う時、必ず定義してから使っている。その態度は誠実だと思う。またカタカナ人事・組織戦略用語は人事に不可欠の知識だから、人事部に配属された新人の教育に本書を使うことも有益だろう。
新人には難解かもしれない。しかし読み通せば、本来の人事がとても高度な目的を持っていることを知ることができるだろう。
(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)
光文社新書 756円
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