人には相性がある「嫌われる」ことも受け入れよう ストレス対策から見ると「我慢」はよくない

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会社や学校に行くと心や体の調子が悪くなりますが、家に帰ればケロッとしているので、一時期は「新型うつ病」などと呼ばれました。

こうした症状が出た場合、精神科医は「物の見方を変えましょう」とか、「自分に合ったストレス解消法を考えましょう」とアドバイスをしますが、どうしても無理ならば、その場から「逃げる」という選択肢があることを知っておく必要があります。

今の環境が無理なら別の環境を探す

会社に行くことがどうしてもツライならば、「会社を辞める」とか、「別の部署に異動させてほしい」と上司に直談判するということです。「いじめ」が怖くて学校に行けないならば、別の学校に「転校」するということも視野に入れる必要があります。

今の環境が無理ならば、無理して我慢せずに、他の環境を探す……ということですが、多くの日本人は、この「逃げる」という選択肢を非常に嫌がって敬遠します。欧米の人は収入や環境面で不満があれば、すぐに転職を決意しますが、日本人は「逃げる」という選択を「汚いこと」とか「卑怯な手段」と考えているのです。

「逃げる」という選択を「卑怯な手段」と考えているから、転職の道を選ぶことはせず、上司に異動願いを出すこともありません。これだけ転職が一般的になった時代でも、多くの人が「じっと我慢」する道を選択して、結果的に心身に支障をきたしたりしているのです。

夫婦関係や人間関係でも、まったく同じ傾向が見られます。欧米人は愛情が冷めたら素早く離婚してしまいますが、日本では我慢することが普通ですから、離婚というのは「よほどのこと」として選択肢から外されます。

人間関係に悩んでいる人の8割くらいは、その人間関係から逃げられないと考えていますから、職場や学校、友人やママ友まで、多くの人が「我慢」の道を選択しているのです。

「我慢する」という考え方は、ある意味では日本人の「美徳」と見ることもできますが、ストレス対策という面で考えると、必ずしも最良の選択とはいえません。日本人が「逃げる」と考えるのは最後に自殺するときだけ……というのでは、最悪の逃げ方しかできないことになります。

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「逃げる」といっても、必ずしも、すぐに会社を辞める必要はありません。「最後には逃げればいいんだ」「逃げられるんだ」と思えれば、すぐに会社を辞めないで、「もう少しだけ様子を見てから決めよう」という気持ちの余裕が生まれます。

「辞めるという手もある」と覚悟ができれば、上司に掛け合って異動をお願いするとか、面と向かって文句を言うことだってできるはずです。少なくとも、現在の環境を変えて、ストレスを吹き飛ばすための最初の一歩を踏み出す決心ができます。

生活面や収入面、家族のことや転職先のことが心配で「逃げる」という選択ができない人もたくさんいます。「逃げる」というのは、あくまでストレス軽減のための「最終手段」とか、「最後の切り札」として、知っておけばいいのです。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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