フランス式「言論の自由」は、普遍的ではない パリ政治学院教授に聞く「文化と歴史」

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──事件後のムスリムたちへの影響は?

テロ防止のために、政府はムスリムたちと戦う方向に向かうだろう。フランス共和国の価値観に合わせることができるか、できないか。合わせることができなかったら、テロリスト予備軍と見なされる。ムスリムたちのほとんどが旧植民地からの移民やその2-3世なので、さらに視線は冷たくなる。

──視線が冷たい?

そうだ。14日、全国放送のラジオの朝の番組で、有名なメディア経営者が「現実を直視しよう。現在のフランスで、問題はムスリムだ」と発言した。「すべてのムスリムがテロリストではないが、すべてのテロリストはムスリムだ」。ここでもし「問題はユダヤ人だ」などとラジオなどで言えば、大問題。デュドネが12年前に反ユダヤ的発言をしたら、全てのメディアから干された。しかし、ムスリムについてならこんなことをラジオで言っても罰せられない。

ムスリムの存在自体、見えにくくなっている。宗教別の統計を取ることは違法になっているので、正式には人口のどれぐらいがムスリムかは分からない。私は10%(600万人)と思っているが。

ムスリムにはテロリストというレッテルを貼ることができる。フランスがドイツ占領下の第2次大戦中にユダヤ人の居場所を当局に通報したように、「隣人がテロリストだ」と言って、アラブ人たちを特定の地域に押し込めるかもしれない。過去にフランスはそういうことをやったし、今度もやるだろう。

国民戦線のルペン代表が支持率を伸ばせば、2017年の大統領選で勝利する可能性もゼロではないのではないか。

繰り返されるムスリムへの侮辱

──14日に、シャルリ・エブドが事件発生以来初めての号を出した。イスラム教の預言者ムハンマドと思しき人物が「私はシャルリ」と書かれたカードを持っている。その上に「すべては許される」と書いている。どのような意味に受け取ったか。

私の個人的な解釈だが、キリスト教的なムハンマドだなと思った。「テロ行為を行った人を許す」という意味に見えた。シャルリの表現を支持し、かつテロ犯を許す、と。

キリスト教から見たイスラム教のイメージに見えた。もしキリスト教徒の教会が攻撃されたなら、イエス・キリストの最初の弟子ペテロが同じことを言ったかもしれない。シャルリの風刺画家はこれを知りながら、キリスト教的な考えをムハンマドに言わせたのではないか。

いずれにしても、ムスリムにとって大きな侮辱であることに変わりはないと思う。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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