フランス式「言論の自由」は、普遍的ではない パリ政治学院教授に聞く「文化と歴史」

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教会権力を政治から排除すること、批判し、笑うこと。これこそが共和国の建国の精神だ。これをなくしては共和国自体が成り立たない。こうした歴史的経緯から、フランスでは神に対する冒とくは犯罪にならない。この点が伝統の1つになっている唯一の国がフランスだろう。

──フランスは、他の国とは違う、と。

そうだ。報道の自由は「フランス人権宣言」(1798年)第11条、出版の自由に端を発し、「1881年出版自由法」で法律上の保証が与えられた。

言論の自由には二つの形がある。世界共通の価値観で、どこの国に住む人もおそらく合意するのが米国式の言論の自由。これは、米国憲法の修正第1条に定められている言論・表現の自由だ。特徴は、自由はあるが同時に隣人に思いをはせる。社会を構成する個人が気持ち良く生きることを考慮する。神の冒とくはいけない、それは信仰を持つ隣人を傷つけることになるからだ。

フランス式の言論の自由とはフランスのみで通用する。隣人への考慮をしない考え方だ。

二重基準、ユダヤへの侮辱は違法

ただし、フランスに絶対的な言論・表現の自由があるわけではない。例えば人種差別的表現、特に反ユダヤ主義的表現やホロコースト(ユダヤ人の大虐殺)の否定は確実に罰せられる。特に厳しいのがホロコーストの否定だ。

この意味で、フランスの言論の自由には「二重基準」の側面がある。具体例がフランスのコメディアン、デュドネだ。過去に反ユダヤ主義を扇動した罪で有罪判決を受けた人物だ。

──約370万人が参加した報道の自由の擁護のための行進(11日)で、デュドネは行進から帰宅し、自分のフェイスブックに「自分の気持ちとしては、シャルリ・クリバリのような気持ちだ」(この部分は後で削除された)と書いたと聞く(クリバリとは、8日、パリ南部のユダヤ人学校の近くで、女性警官を射殺したアメディ・クリバリ容疑者のこと。パリ東部のユダヤ系食料品店で人質とした4人のユダヤ人を殺害した)。

 デュドネは私たちに問いかけているのではないかと思う。「自分はユダヤ人やテロ容疑者について思ったことを言いたい。シャルリには言論の自由が許されるのに、なぜ自分には許されないのか」と。デュドネは14日に逮捕されたが、テロを扇動した容疑で裁判にかけられる見込みだ。

 ──イスラム教の預言者を冒涜した場合、国内に住む約500万人と言われるイスラム教徒たち(ムスリム)の感情を害することにもつながるが。

その点が問題を複雑にさせている。共和国の価値観を受けて入れているどうかの問題にも関わってくるからだ。

フランスのムスリムたちのほとんどは、旧植民地諸国からの移民あるいはその2~3世だ。この人たちは完全にフランス人にはなっていないと見られる場合がある。それは、例えば、自分の父がアルジェリア出身で自分がフランス生まれなら、アルジェリアの市民権を持っている。フランス人でありながらアルジェリア人でもある。2つのパスポートを持つ。フランスではアルジェリア人として扱われ、アルジェリアではフランス人として扱われる。

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