累積赤字は470億台湾ドル(1台湾ドル=3.75円)に達する。約400億台湾ドル分の優先株のうち、一部の株主が配当金の支払いと株の買い戻しを求めて提訴しており、3月にも判決が出る。高鉄には手元の資金が18億台湾ドルしかないため、判決で払い戻しが確定すれば、破産するしかない。
さらに1月7日、国民党の立法委員たちが同党の議員総会で18人の全員一致で、台湾の交通部と台湾高鉄が提出した財務改善計画を否決した。これで破綻の可能性は一段と高まった。
財務改善計画を推し進めた葉匡時交通部長(大臣)は責任を取って辞任。3月に迫った「期限」に対し、打つ手はなくなったとも見られている。「商売はうまくいっている。正月の切符は売り切れている。その高鉄がなぜ破産をしなきゃいけないのか。破産が高鉄の唯一の運命なのか」――。台湾で最も影響力のある経済誌の一つ「天下雑誌」は記事のなかでこう問いかけた。それは私を含め、多くの人が感じる疑問だろう。
「高望み」すぎた利用者予測
その答えを知るためには、台湾新幹線の誕生と同時に、その体内に仕掛けられた「時限爆弾」とも呼べる「負の遺産」について理解しないといけない。台湾新幹線は民間が建設と運営を担い、35年後という異例の短期間のうちに資産を当局に移管するBOT方式で整備された。
つまり、短期間で大きな利益を上げられるという皮算用のもとに想定された償還期間なのである。借りた資金も市中レートよりもはるかに高く設定されていた。すべてが楽観論にもとづいて考えられていたのである。
具体的に言えば、台湾新幹線の発足時、6%の経済成長を台湾が続け、30万人の利用客が毎日乗ってくれるという前提ではじき出した利用者予測が響いた。今の利用者は1日平均13万人で、年々伸びてはいるが、想定の半分にも達していない。
東海道新幹線の東京〜新大阪間でも利用客は1日平均約40万人であるから、この30万人という数字がいかに「高望み」だったかは分かる。台北〜高雄の距離は東京〜名古屋とほぼ同じ。経済規模などの実感からすれば、新大阪〜博多の約17万人あたりが目標としてはギリギリの線であったような気がする。
台湾新幹線が構想された1990年代は、台湾にとって経済成長が最後の輝きを見せた時代であり、楽観論に支配されたのも理解できないではない。だが、甘く見積もった成長予測をはじき出すコンサルタントの口八丁に乗せられ、テーマパークを作って泣かされた日本の地方自治体と似たような構造である。
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