「日本は和の国、和の心を忘れれば倒産する」 独断専行を嫌う国民性は、神代から

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「まあ、日本は、西洋の民主主義を、それをそのまま、取り入れても、うまく機能せんわね。それは、ヨーロッパや米国では、当てはまるかもしれんが、日本では、日本的な民主主義を作り上げんといかん。そういう努力をこれから日本人は取り組み、つくり上げんとね。でないと、国民に根付かんね。

他国は、だいたい長い間で、ずいぶんと戦争をしとるけど、2600年の長い歴史を有する国としては、日本は少ないな。古代における朝鮮半島の戦争、秀吉の時の高麗、明を相手の戦争、さらに近代になって、明治における日清、日露の両戦争、第一次、第二次の世界大戦など、十指に満たないわ。けど、ヨーロッパの国々は、ギリシャ、ローマの昔から、いわば戦乱と侵略の繰り返し。中国も周辺の民族と互いに攻めつ攻められつしてきた歴史や」

平和を愛好する精神が日本のよき伝統をなしている

(イラスト:Poosan/Imasia)

「むろん、島国ということもあるかもしれんが、同じ島国でもイギリスは武力を持って7つの海を征服し、世界の各地に植民地をつくりあげている。単に島国であったということのほかに、もうひとつ、昔から日本人は平和を愛好する精神があり、それが日本のよき伝統をなしていると思うな、わしは。 

聖徳太子さんのな、あの『十七条の憲法』の第一条に“和をもって貴し”とあるね。人間は、お互いに仲良くすることが大切であって、争いや戦争などしてはならない、和の精神を貴び、平和を愛好しなくてはならないということだと思う。そういうことをいろいろ考えてみると、日本人には、知らず知らずのうちに、和の心というか、精神が培われていると。

明治天皇さんが、“よもの海 みなはらからと 思ふ世に など波風の たち騒ぐらむ”という御製を作ってはるわね。明治37(1904)年の日露戦争の時や。それは、決して相手憎しという感情から戦うのではない。天皇さんのお気持ちは、外国の人々をみな、はらから(同胞)、すなわち兄弟同様に親しく、大切に思われたということや。

日本人は、もともと、そうした和の精神を民族の伝統として持っているのであり、そのことを忘れてはならんな。長い歴史を通じて受け継がれてきた”和を貴ぶ精神”、それをはっきり認識し、その上に立って、平和というものを求めていくことが、きわめて大切ではないかと思うな。

そやから、経営をしていくときも“和”ということ、“和の精神”ということを根底にして進めていかんとダメや。社員の知恵を集める、尊重する。そして、助け合うとか、思いやりのある会社にするとか、職場にするとか、そういうことに意を持ちいんといかんな。それが、日本の指導者、経営者が忘れたら、会社は、潰れるな」

ひょっとすると、平安時代から言われるようになった「日本」という国名以前は、この国を「和」の国と言っていたかもしれない。それを昔の中国が、さげすんで「倭」という漢字を当てたのだろう。日本は、和を貴ぶ国柄なのである。そういう意識をもって経営をしていこうと、松下の話を聞きながら考えていた。 

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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