日銀は庶民が苦しむ円安政策をすぐ変更すべきだ 今や円安は日本経済にとって明らかにマイナス

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小泉政権発足(2001年)後の2002年ごろから2008年のリーマンショック前までは、実感なき景気回復と言われた。それは資源価格、食料価格の急騰をもたらした。一方で、急激な円安により、国内生産量も輸出も、そして雇用も増えたのだが、日本の輸入額の半分近くを占めるエネルギー、食糧の輸入額が急増し、国内所得の増加を遥かに上回って増加してしまい、国民のエネルギー、食糧の必需品の輸入額を除いた、実質的な可処分所得が大幅に減少してしまったからなのであった。

したがって、当時から円安は日本経済にマイナスだったのだが、政治家にはとくに、企業関係者もエコノミスト達も、円安信仰から抜け出せないまま、円安政策が国内的には支持され続けたのである。それは、2013年以降本格的に始まったアベノミクス政策が始まってからも残り続けた。これに私は警鐘を鳴らした。だが、2013年の拙著「リフレはヤバい」、は話題になったものの、2015年の渾身の日本経済救済の処方箋、拙著「円高・デフレが日本を救う」は、私の著作の中で最も売れなかった本となった。

ここにきて起きている変化

それが、ここにきて変わってきた。2022年3月18日の、黒田東彦日銀総裁の記者会見では、円安による日本経済の危機の認識を問うことに質問が集中し、黒田総裁は、円安にはプラスとマイナスがあるが、日本経済にとっては、いまでも円安はプラスと答弁することに終始した。

黒田総裁は、すべてをわかっていると思うのだが、政治的な状況などを配慮したか、あるいは円安懸念を表明すると、一気に円高に振れてしまい、それではショックが大きいため、現時点でははっきりとは表明できない、ということなのかもしれない。

しかし、ともかく、日本銀行は、日本経済のために一刻も早く金融政策を修正する必要がある。現在の大規模金融緩和は、危機対応であったのだから、「金融引き締めでなく、十分に緩和的である状態を維持したまま、正常化を図る」、という論理は十分に通じるし、実際にそうであるから、少なくとも一歩でもいいから正常化に舵を切るべきだ。

具体策としては、まず一番特異な政策である、日本株のETF(上場投資信託)の買い入れを終了し、売却に転じるべきであると思う。そして、一時的にこの政策変更が株式市場に与えるショックを緩和するために、ETF買い入れはやめ、ごく少量ずつ売却を開始することとする。一方で、ショックが大きく株式市場におけるリスクプレミアムに急激に変化が生じた場合には、先物の売買を行うことにして、過剰な変動を抑制する、という政策をとるべきだと考える。

そして、その後はイールドカーブコントロール(長短金利操作)の年限を少しずつ短期化すること、そして、マイナス金利を解除すること、これらを丁寧に少しずつゆっくり行い、まず金融正常化を図り、普通のゼロ金利政策に戻していくことが必要だと考える。

この政策変更の具体的な詳細は、また改めて議論したい。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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