10年間温めてきた期待のがん治療薬がついに発売。期待が高まる一方、訴訟リスクも浮上する。
製薬業界で時価総額トップの座を中外製薬と争っているのが第一三共だ。今年1月に米国、5月には日本で乳がん向けに発売されたばかりの、同社が創製した新しいがん治療薬「エンハーツ」への期待が高まっている。
年間売上高1000億円超えが大型薬の目安とされている製薬業界にあって、エンハーツの売上高はピーク時には5000億円を超えると予想する市場関係者も少なくない。発売初年度の売上高は324億円にまでなる見込みで、今後は“超”がつくほどの大型薬として、第一三共の大黒柱となる可能性を秘めている薬だ。
2020年度は研究開発費が膨らむため大幅な減益を見込むが、株式市場はその先の成長を見ている。
統合成果の新技術
エンハーツが特徴的なのは、第一三共が自社で温めてきた創薬技術を使って生み出された「ADC(抗体薬物複合体)」と呼ばれるタイプの薬だからだ。
ADCとは、名前のとおり「抗体」に「薬物(従来の抗がん剤)」を結合させたもの。抗体は直接がん細胞に結合できる運び屋のようなもので、ピンポイントでがん細胞を攻撃する。ADCは抗体のみの治療よりも有効性が高く、がん細胞以外も攻撃してしまう抗がん剤だけの治療よりも副作用が少なく済むというメリットがある。
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