有料会員限定

松下幸之助「過当競争は日本経済を毒する」 1958年5月24日号で語った廉売合戦への危惧

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 最新
拡大
縮小
「経営の神様」として多くのビジネスパーソンにとって学びの対象になっているのが、松下幸之助氏である。東洋経済では同氏に数多くのインタビューを行っている。前回掲載したインタビューは昭和28年のものだが、これは昭和33(1958)年のもの。テレビや洗濯機などの家庭電気機器に多くの重電メーカーが参入してきたことにより激しいシェア合戦が発生していた時期。卸売業者や小売業者は少しでも安く売ろうと競っており、メーカー指定価格を守らないことも多かった。公正取引委員会は、こうした安値販売を禁じるメーカーの行為に目を光らせていた。
安値販売に真っ向から反対していたのが松下氏だ。「相互義務という考え方が薄い」「相撲をとって勝負を決するような商売をするのはよくない。商売は相撲とは違う」「適当な利潤を取らない人間は処罰するという法律ができたらいい」と語るなど、不快感をあらわにしている。
と同時に、「いまから250年先に、われわれ産業人は製品をタダで供給するようにせないかん」とも。長期的には価格引き下げを検討しているので今はメーカーが指定する価格で売らせてほしい、ということだったのだろうか。
松下幸之助(まつした・こうのすけ)氏略歴:明治27年11月27日和歌山県海草郡和佐村字千且木に生る。火鉢屋、自転車店(五代商会)、大阪電灯(株)に奉職。大正7年3月松下電器製作所創設。昭和10年12月株式会社組織に改組し、松下電器産業株式会社を設立、社長に就任現在にいたる。その他松下電工(株)、松下電子工業(株)等の関係会社の会長、社長を兼務。

特集「覧古考新」の他の記事を読む

家庭電器界も最近は悩みが多い。公取委勧告に端を発する乱売合戦、過当競争はその最たるものといえるだろう。この業界に身を投じて四十余年、松下電器を今日の姿にまで築き上げた「家庭電化の家元」も、この混乱にはいささかニガい表情とお見受けした。
しかし、さすがは筋金の入った苦労人、業界人の自覚を要望する一方、事業の目標は社会奉仕にあると説くあたり、やはりなみの経営者にはみられない器量がみえる。近ごろ、企業の公共性が云々されるが、松下さんは二十何年か前に、すでにこの点を深く認識、経営の大眼目にしておられる。

日本経済を毒する過当競争、経済人に薄い相互義務感

本社 松下さんは毎年、年頭のあいさつの中で、幹部社員に経営方針をお示しになっておられるようですね。それがその年の情勢判断の基準になっているように思うのですが、今年はどんな……。

松下 そりゃあ今年は景気が悪いから、みんな注意しやらないかんということですわ。ですが、われわれの方の電気器具は、どの家庭でもほしいものばかりですから、伸びることはたしかでしょう。これを満たしていくのはわれわれの義務だと考えています。しかしこの場合でも、国民の所得に応じて徐々に伸ばしていく、この方針が必要です。需要を急速に満たすのも悪いことではないでしょうがやはりそれには順序があります。

どの程度増産するか、増産して引合うかどうかですが、それは業者自体のあり方にあるんです。早い話が、極端に競争して、互いに損ばかりしたら、これは疲弊しますな。その点をみんながどこまで目覚めて、どの程度自制するか、これは良識の問題やと思います。

関連記事
トピックボードAD
連載一覧
連載一覧はこちら
トレンドライブラリーAD
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
特集インデックス
覧古考新
「今の日本は日満議定書における満州のようなもの」
1984年6月9日号、6月23日号より
1953年のロングインタビュー
1984年に小倉昌男社長が語った「将来は流通業」
「客から仕様の注文があったら、もう遅い」
ホンダ創業者が1954年に語った独自の哲学
松下幸之助氏と永野重雄氏の1969年新春対談
1983年8月27日号で語ったサントリーの生き方
1958年5月24日号で語った廉売合戦への危惧
4男・渋沢秀雄氏が語った大実業家の素顔(上)
4男・渋沢秀雄氏が語った大実業家の素顔(下)
「自由主義経済の経営理念」とは?
山下社長が1983年7月16日号で語ったこと
「菓子屋が政治的圧力を利用して商売できる時代ではない」
1970年2月28号で語った「東京進出作戦」
1953年9月19日号で語ったドイツとの比較
1965年5月1日号「この人にこの問いを」
日本のハンバーガー文化はここから生まれた
1977年に堺屋太一氏が描いた「組織と個人」
稲葉清右衛門「ついてこれない人はやめてもらって結構」
1985年、ファナック社長が語っていたこと
1988年に語った「ヒューマン・ルネッサンス」の経営
ラストバンカー西川善文氏を悼む
過去のインタビューを再掲
東大特別栄誉教授・小柴昌俊氏を悼む
2008年の『長老の智慧』インタビューを再掲
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』エズラ・ヴォーゲル氏を悼む
2019年のインタビューを再録
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT
有料法人プランのご案内