「経営の神様」として多くのビジネスパーソンにとって学びの対象になっているのが、松下幸之助氏である。東洋経済では同氏に数多くのインタビューを行っている。前回掲載したインタビューは昭和28年のものだが、これは昭和33(1958)年のもの。テレビや洗濯機などの家庭電気機器に多くの重電メーカーが参入してきたことにより激しいシェア合戦が発生していた時期。卸売業者や小売業者は少しでも安く売ろうと競っており、メーカー指定価格を守らないことも多かった。公正取引委員会は、こうした安値販売を禁じるメーカーの行為に目を光らせていた。
安値販売に真っ向から反対していたのが松下氏だ。「相互義務という考え方が薄い」「相撲をとって勝負を決するような商売をするのはよくない。商売は相撲とは違う」「適当な利潤を取らない人間は処罰するという法律ができたらいい」と語るなど、不快感をあらわにしている。
と同時に、「いまから250年先に、われわれ産業人は製品をタダで供給するようにせないかん」とも。長期的には価格引き下げを検討しているので今はメーカーが指定する価格で売らせてほしい、ということだったのだろうか。
家庭電器界も最近は悩みが多い。公取委勧告に端を発する乱売合戦、過当競争はその最たるものといえるだろう。この業界に身を投じて四十余年、松下電器を今日の姿にまで築き上げた「家庭電化の家元」も、この混乱にはいささかニガい表情とお見受けした。
しかし、さすがは筋金の入った苦労人、業界人の自覚を要望する一方、事業の目標は社会奉仕にあると説くあたり、やはりなみの経営者にはみられない器量がみえる。近ごろ、企業の公共性が云々されるが、松下さんは二十何年か前に、すでにこの点を深く認識、経営の大眼目にしておられる。
日本経済を毒する過当競争、経済人に薄い相互義務感
本社 松下さんは毎年、年頭のあいさつの中で、幹部社員に経営方針をお示しになっておられるようですね。それがその年の情勢判断の基準になっているように思うのですが、今年はどんな……。
松下 そりゃあ今年は景気が悪いから、みんな注意しやらないかんということですわ。ですが、われわれの方の電気器具は、どの家庭でもほしいものばかりですから、伸びることはたしかでしょう。これを満たしていくのはわれわれの義務だと考えています。しかしこの場合でも、国民の所得に応じて徐々に伸ばしていく、この方針が必要です。需要を急速に満たすのも悪いことではないでしょうがやはりそれには順序があります。
どの程度増産するか、増産して引合うかどうかですが、それは業者自体のあり方にあるんです。早い話が、極端に競争して、互いに損ばかりしたら、これは疲弊しますな。その点をみんながどこまで目覚めて、どの程度自制するか、これは良識の問題やと思います。
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