日本の家電業界、需要は緩やかに回復するが、厳しい事業環境は変わらず《ムーディーズの業界分析》

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第二に、デジタルAV市場においては厳しい競争が継続しており、特にコモディティ化が進んだ薄型テレビおよび薄型ディスプレーパネルなどの主要製品において、10年後半以降、供給過剰が生じている。この結果、10年前半と比較し、価格下落幅が大きくなっている。

また、世界のテレビ販売台数の約3分の1を占める韓国のサムスンやLGエレクトロニクスを含めた、他のアジアメーカーとの厳しい競争も継続している。直近で、政府の政策インセンティブによる国内需要の大幅増の恩恵を受けている日本企業は、市場シェアを若干ではあるが回復している。しかしながら、機能面、価格面、ブランド力の面で十分な差別化ができていないため、グローバル市場での地位を大幅に改善するのは難しい、とムーディーズは予想している。

第三に、薄型テレビの国内売り上げの伸びを支えてきた「グリーン家電購入促進に対する日本政府による助成制度(家電エコポイント制度)」が11年3月に終了する。また、家電エコポイント制度と同様に、薄型テレビの購入を促進してきたデジタル放送への移行(アナログ停波)も11年7月に完了する。さらに、他の主要先進国市場においてもデジタル化はおおむね終了する。現在はこうした要因によって、将来の需要が一部先取りされており、今後はその反動減があることも予想される。

最後に、10年後半以降、円は高水準で推移している。円高は、国内に基幹部品等の生産拠点を構え、輸出を行っている日本メーカーのコスト競争力にマイナスの影響を与え、海外事業からの利益の圧迫要因となろう。円高が続いたとしても、仮に価格転嫁を行うことができれば、その影響を緩和することも可能である。しかしながら、ウォン安の追い風を受けている韓国メーカーとの間で熾烈な競争が続く中、日本の家電メーカーが十分な価格転嫁を行うのは実際問題としては難しいであろう。

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