科学的根拠に基づいた政策手法を見習うべき
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
米オバマ政権では、経済学の最新の知見を用い、規制が導入されていた。その際、わかりやすい言葉を用い、官僚主義的で煩雑な手続きを削除し、正当な理由なく費用を要するものは取り除き、シンプルな政府を目標としていた。
本書は、オバマ政権の行政管理予算局情報・規制問題室のヘッドとして、3年間にわたり各省庁が作る規制を監督した法学者のエッセーだ。元々、ハーバード大学のスター憲法学者で、経済学と法学の隣接分野での研究も多数あり、ノーベル経済学賞を2017年に受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授と共に、『実践行動経済学』を著したことでも知られる。その著作でも注目された「ナッジ」という考え方をもとに、改革の大なたを振るった。
伝統的な経済学とは異なり、必ずしも人間は合理的行動を取らないというのが、著者が依拠する行動経済学だ。ただ、規制が必要でも、強制では新たな抜け道探しを人々に促すだけに終わるかもしれない。金銭的動機付けでの解決は、資源配分の歪みを生むリスクがある。もともとナッジは「ひじで軽くつつく」という意味だが、強制や金銭的動機付けではなく、自主性を重んじ、選択の自由を確保した上で、望ましい選択に人々を導く工夫のことだ。
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