現実に絶望する人がメタバースに夢を託せる理由 生まれる条件次第で格差生む「親ガチャ」に抗える

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VRはバーチャル・リアリティ(Virtual Reality)、ARはオーグメンテッド・リアリティ(Augmented Reality)。VRは人工現実感、ARは拡張現実感と訳される。

(出所)『メタバース さよならアトムの時代」(集英社)

噛み砕いて言えば、「AR」はアイドルが自宅に来てライブをしてくれる〈日常に来てもらう装置〉である。それに対して「VR」はアイドルのライブに自宅から参加する〈非日常へ行く装置〉と言える。

世の中ではARに可能性を感じている人のほうが多いというのが僕の実感だ。ARは現実世界を拡張していく概念なので、実感がわきやすいし身近に感じるからだろう。「ポケモンGO」はARサービスで最も商業的に成功した例だ。

ではマーク・アンドリーセンはなぜAR市場よりもVR市場のほうが大きくなると言ったのだろうか。

彼は「この世界はすばらしい」と思っている人がどれほどいるだろうか、という疑問を投げかけたのである。実際の発言としては「面白いことが起こっているぞと思えるような場所で目を覚ますことができる人は、全世界で1パーセントどころか、0.1パーセントもいない」というものであった。

地球上のほとんどの人は、今いる場所や今の人生がベストだとは思っていない。

これはかなり本質的な指摘だと僕は感じる。

現実そのものを作り変えるのがVR

近年「親ガチャ」という言葉が日本で話題になった。ソーシャルゲームでアイテムやキャラクターを手に入れる際の「ガチャ」になぞらえて、「子どもが親を選ぶことはできない」という生まれの格差を指す言葉である。

メタバース さよならアトムの時代
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すべての人間は、どの土地に生まれるのかも、どの人間の子どもになるのかも選ぶことはできない。生まれが大都市か地方か、家庭が豊かか貧しいか。人間は条件によってまったく異なる人生を歩む傾向にある。

それだけではなく、自身の「遺伝子」も自分で選ぶことはできない。生まれ持った顔や身体を全肯定できる人はどれほどいるだろう。僕自身も、この自分の身体について諸手を挙げて大好きだなんて微塵も思ってはいない。

そう考えると、現実の拡張であるARではなく、現実そのものを作り変えてくれるVRに惹かれる人が多いはずだという指摘はとても腑に落ちる。

メタバースに対する希望の1つは、現実の自分がとらわれざるをえない、土地・環境・身体から解き放たれることにあるのかもしれない。

前回:メタバースとFF14が「似て非なる」決定的な根拠(4月5日配信)

加藤 直人 クラスター株式会社 代表取締役CEO

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かとう なおと / Naoto Kato

1988年大阪府生まれ。京都大学理学部で宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にスタートアップ「クラスター」を起業。2017年にVRプラットフォーム「cluster」を公開。clusterは現在アバターを用いたコミュニケーションやオンラインゲームの投稿などができるメタバースプラットフォームへと進化している。

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