東芝「会社分割案」実現のあまりに高いハードル 24日の臨時総会目前に、社外取と会社側が対立

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こうした批判を受けてか、東芝は2月7日に会社分割の枠組みを変更。2分割にすることで費用を圧縮でき、その分株主還元を手厚くできると主張した。こうして出てきたのが、2分割について株主の「ご意見確認」をする会社提案の議案だ。これを見て、3Dはすでに提案していた第2号議案を撤回した。

3Dが定款変更の提案を取り下げたことには、どのような意味があるのだろうか。

法人の目的などを定め、「会社の憲法」とも言われる定款を変更するには高いハードルがあり、株主総会で3分の2以上の賛成が必要になる。東芝は、「定款変更では議決権の3分の1を有する株主が拒否権を持つことになり、過半数の株主が望んでいるにもかかわらず、戦略的再編(会社分割)を行えなくなるおそれがある」と批判する。だが、それこそが3Dのもくろみであり、成立のハードルを上げて分割を阻止しようとしていた。

対して、東芝側が提案した「ご意見確認」にはそのような要件はなく、過半数の賛成で成立する普通決議だ。東芝によると、法的拘束力のある株主総会での承認は2023年の定時株主総会で行う予定だという。

では、臨時株主総会で分割案が否決された場合はどうなるのか。法的拘束力がない以上、会社分割を禁止するものではないというのがポイントだ。つまり、分割の枠組みを変えるなどの可能性は残されたままだ。2月7日の発表時、綱川智社長(当時)は「(会社提案が否決された際)スピンオフの内容を修正するのか、まったく別の選択肢を取るのか真摯に受け止めて検討したい」と述べるにとどめていた。

株主総会直前の社長交代

第3号議案の成否次第では、非公開化に向けた検討が再び始まる可能性もある。ただ、これまで東芝側は社外取締役で作る戦略委員会によって非公開化の実現性について否定的な態度をとり続けただけに、すんなりいくかは見通せない状況だ。そのうえ、現在の東芝経営陣は思い切った路線変更をする体制にない。

厳しい駆け引きが続くなか、東芝は3月1日、綱川社長と畠澤守副社長の退任と、島田太郎新社長、柳瀬悟郎新副社長の就任を発表した。

3月に就任した島田太郎新社長(写真中央)、柳瀬悟郎副社長(同左)(写真︰東芝)

この日の会見で社長交代の理由を説明したのは、指名委員会の委員長である前出のゼイジ氏だ。

ゼイジ氏は「株主の懸念は、スピンオフ計画をタイムリーに実行する現経営陣の能力と意欲に対する懐疑的な見方だ」としたうえで、「優秀な外部候補者の雇用に悪影響があることも認識した。そこで、指名委員会は、暫定的な解決策として東芝の再編の開始・実行をリードできる候補者を特定した」と語った。

2月の2分割案公表後、株主からは経営陣に対する不満の声が相次いでいたという。2分割案は、ゼイジ氏も所属する戦略委員会も承認したものだ。これを円滑に進めるためには綱川体制では理解を得られない、といった判断からの社長交代だ。

つまり、あくまで島田新社長は暫定であり、6月の定時株主総会まで外部人材を含めて適切なトップ候補が見つかれば再び社長交代があるということだ。結局、今回の社長交代によって、東芝経営陣の方針が変わったわけではない。島田氏はこの日の会見で、「取締役会の決定に従い業務を遂行する」と繰り返した。

「変革を外部の手にゆだねるのではなく、自らの手で行っていくことが必要。私はこれが東芝が変わるための最後のチャンスだという危機感を持って臨んできた」。綱川氏は社長交代会見でこう語った。

一方で、「自らの手」による意思決定にこだわったことが今回の袋小路に陥った要因とも言える。分割という路線にこだわった結果、株主との対立が続き、身動きが取れなくなる可能性もある。

臨時株主総会の後、東芝がどのような判断を下すのか。袋小路の出口はまだまだ見えない。

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高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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