大人の食物アレルギーに深く関わる「意外な職業」 成人の「10人に1人」が症状を持つ深刻な実態

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成人食物アレルギーを発症するきっかけとして、化粧品の使用があります。化粧品には、食品と同じような成分が含まれていることがあります。化粧品を毎日使っているうちにこれらの成分に対するアレルギーになり、やがては同じような成分が含まれる食品に対してもアレルギーを発症してしまうというわけです。

食物アレルギーを発症する添加物として古くから知られているのが、コチニール色素(カルミン酸)です。南米産サボテンに寄生する昆虫エンジムシ(コチニールカイガラムシ)の乾燥した雌の体から抽出される赤色の色素で、化粧品では口紅やアイシャドーなどに使われています。

また、化粧品の添加物として使用される加水分解小麦に対するアレルギーが、小麦を食べることによって生じる食物アレルギーの原因にもなり得ます。今から約10年前、〝旧茶のしずく石鹸〟に含有されていたグルパール19Sという加水分解小麦によって、2000人を超える人が小麦アレルギーを発症し、社会的に大きな問題になった〝旧茶のしずく石鹸事件〟がありました。

化粧品に含まれるたんぱく質由来成分によってIgE抗体感作を引き起こし、成人食物アレルギーが発症し得るものであることを強く認識する必要があります。

成人食物アレルギーは一生治らないものではない

このように、成人食物アレルギーの発症のメカニズムはさまざまです。食べるだけではなく、皮膚や粘膜からのアレルゲンの侵入によって発症した場合は、原因であるアレルゲンの侵入を止めれば、長期的には食物アレルギーが改善する可能性があります。

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例えば、使っている化粧品が発症の原因であれば、その化粧品を使わないようにします。〝旧茶のしずく石鹸事件〟でも、加水分解小麦を含有した〝旧茶のしずく石鹸〟の使用中止によって、小麦アレルゲンへのIgE抗体価は経年的に減少し、大半の患者さんに小麦アレルギー症状の改善が認められました。

一方、経口感作によって発症した場合、長期的な予後(経過予測)は十分に明らかになっていませんが、一般的には予後は悪いと考えられています。とはいっても、一部の患者さんにおいては、該当する食物の経口摂取を中止すればIgE抗体価が経年的に低下する場合があります。

成人食物アレルギーは、一度発症すると一生治らないといわれてきましたが、何年かかけて改善する可能性は十分にありますので諦める必要はありません。

福冨 友馬 アレルギー専門医

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ふくとみ ゆうま / Yuma Fukutomi

1979年山口県生まれ。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター臨床研究推進部アレルゲン研究室室長。医学博士。2004年広島大学医学部卒業。沖縄県立北部病院を経て2006年から相模原病院アレルギー科に勤務、2009年同臨床研究センター研究員。2012年より現職。著書に『大人の食物アレルギー』(集英社新書)、『臨床現場で直面する疑問に答える成人食物アレルギーQ&A』(日本医事新報社)などがある。

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