部下を叱るときに、「策をもって叱るな」 感謝しながら、命がけで叱る

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けどな、叱った後、言葉が過ぎたかな、と思う時もあるし、ああいう言い方、叱り方でよかったのかな、と思い考えることもあるし、本当にわかってくれたんやろうかと案じたりするな。いろいろな思いが心のなかを駆け巡るわけや。それどころか、夜、寝れんこともたびたびある。

4、5日、ずっと残ることもある。叱る方はいいですねとか、言いたいことが言えていいですねと思う人もおるだろうけどね。叱った後は、いつもつらく悲しいもんやで。わしだけかもしれんがね。

まあ、そういうことを考えるからな。そういうわしの気持ちを察して、なにか、叱られても、部下の人たちが、わしに同情してくれているんかもしれん。だから、本気で怒っても、部下の人たちが、よく理解してくれて、自分たちが悪かったと素直に反省してくれる、やっぱり、わしについていこう、と、まあ、こういうことかもしれんな。叱ってすっきりしたという経営者もいるけどね、わしは、逆やな。かえって気が重うなるわ。けど、とにかく、叱るときに、策をもって叱ることはしない」

というようなことを説明してくれた。松下幸之助らしい話だと思いながら聞いていた。少し、間をおいて、「けどな」と、松下が話を続けた。

叱られた後が大事

「けどな。叱られる部下を見ておると、叱られるのがうまい人と、下手な人とがおるね、わしの経験として。いろいろ言い訳をする者は論外として、叱って、『わかりました』ということでその場は終わるとしても、そのあとが、大事であるわけや。

叱られた者は叱られたことで、精一杯かもしれんが、今も言ったけどな、叱ったほうもそれ以上に思い悩んでおる場合もあるわけや。いわば、抜いた刀を、どう鞘に納めようかと。

そんなときに、その部下が、すぐにやってきて、『先ほどのことはよくわかりました。これからは十分気を付けます。すみませんでした』と言うと、こっちも思い悩んでいるところだから、ああ、あの叱り方でよかったな、わかってくれたんやな、ということになるわね。叱ったほうも、内心ホッとして、やあ、わかればそれでいい、これからも頑張るように、ということになる。刀がそこで納められる。

叱ったほうも、一区切りついたという気分になると同時に、なかなかいい部下だなと思う。また、かえって、そういう部下が可愛くなる。人情やな、それが。もっとも、わからんのにわかりましたと言ってくるのはあかんけどな。うん、そりゃ、すぐわかるで。

まあ、叱られ上手は、叱ったほうに、いやな余韻を残さん工夫をする人やな」

そうか、叱られたとき、こういう対応をすればいいのか、と思うと同時に、松下が図らずも「手の内」を明かした気がして、内心、愉快な気分になったことを覚えている。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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