「新型コロナは空気感染」国はなぜ認めないのか 空気感染は「迷信的な考え」と軽視される理由

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ダイヤモンド・プリンセス号での感染の大流行が患者の移送作戦で終わろうとしていたころ、私は臨時検疫官として船に乗り込む機会を得ました。

事前の情報から船内の空調システムの概略を知ったのですが、これは「空気感染」が起きるのに最適なつくりだと驚きました。なぜなら、各部屋の空気を1カ所に集め、約3割分外気を混ぜただけで温度調節をし、それを一斉に各部屋に戻すものだったからです。

700人以上が感染した「仕組み」とは?

なるほど効率的な省エネ空調なのでしょうが、客室の1つに感染患者がいたために、これを介して日を追うごとに感染が拡大し、最終的に700人以上が感染してしまいました。

新型コロナウイルスが空調によって各部屋に拡散されたため、船内の部屋にいた人々が短期間に感染した

これだけ短期間に多くの部屋に分散していた大勢の人が感染したということは、特定の汚染か所に触れての接触感染や短時間で落下するような大きな飛沫での感染(飛沫感染)では説明できません。空気感染があった紛れもない証なのです。

何より重要なことは、新型コロナウイルスが発見されてから早い段階(2020年2月)で、すでに接触感染ではなく空気感染だということが、さまざまなところから報告されていた事実です。

それなのに、公に発表された感染経路は「感染者がくしゃみや咳をし、その飛沫あるいはそれを手で押さえたあと、その手で周りの物に触れてウイルスがつき、別の人がその物に触ってウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染する」というものでした。

では、なぜわかっていたのに、空気感染の事実が世に認められなかったのでしょうか? そこにはこれまでに世界で起こった感染症と感染症の専門家達の歴史が影響しています。

あまり知られていないのですが、マラリアはイタリア語のmala(悪い)aria(空気)が語源で「悪い空気」という意味なのです。昔は、解明されていない感染症は空気が悪いからだとして、なんと呪術で払うというようなことが真剣に行われていました。しかし、科学者達の努力でマラリアは蚊が媒介した感染、コレラは汚染された飲料水からの感染など、さまざまな感染症の感染ルートが次々に解明されていきました。

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そして空気感染という考え方は迷信的な考え方だとして軽視されるようになり、空気感染という概念を容認しない大家が書いた教科書がそのままバイブルのようになり、延々と今日まで続いているのです。

そのため新たな感染症が現れると、真っ先に手洗いが推奨されるのです。しかも、空気感染は結核、麻疹(はしか)、水痘(すいとう・みずぼうそう)だけと、逆にこの3つの病気を空気感染の定義にするような変な教え方までされるようになり、現在でも空気感染を認めたがらない傾向にあるのです。

西村 秀一 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルス疾患研究室長

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にしむらひでかず / Hidekazu Nishimura

1955年山形県生まれ。専門は呼吸器系ウイルス感染症、特にインフルエンザ。呼吸器系ウイルス感染症研究の日本における中心人物のひとり。

1984年山形大学医学部医学科卒業。医学博士。同大細菌学教室助手を経て、1994年4月から米National Research Councilのフェローとして、米国ジョージア州アトランタにあるCDC(疾病対策センター)のインフルエンザ部門で研究に従事。1996年12月に帰国後、国立感染症研究所ウイルス一部主任研究官を経て、2000年4月より現職。著書に井上亮編『新型コロナ「正しく恐れる」』がある。

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