猫は「ゴルゴ13以上のスナイパー」すごすぎる能力 優れた狩り能力を実現させるすごい身体の構造

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ノラねこなどは、木に登って野鳥を捕まえることがあります。ねこが木に登れるのは、もちろん、鋭いツメのおかげでもあるのですが、もう1つ、前肢を使って木に抱きつくことができるからです。「ねこ」とことあるごとに比較される「いぬ」は、木に登ることができません。それは、木に抱きつくことができないからです。

前肢を使って木を降りる猫(写真:朝日新聞社)

いぬの前肢は、前方と後方にしか動きません。つまり、いぬにとっての前肢は主に歩行するためのものです。一方、ねこは前肢を前後だけでなく、内側や外側にも自由に動かすことができ、これが抱きつくという動きを可能にしています。この動作も、ネコ科の狩りの特性にあわせて、進化してきた能力です。

捕まえた獲物にしっかり抱きつくのは、逃さないようにするためでもありますが、それだけではありません。牙で脊椎を切断する際に、正確な一撃を与えるためにも、獲物の首にツメを立てた前肢でしっかりと抱きついて、獲物を固定する必要があるからです。

子ねこなどが人間とじゃれついて遊ぶとき、わたしたちの手や足に、多少ツメを立てながら抱きつき、甘がみすることがよくあります。これは獲物にとどめを刺すための殺しの訓練を、わたしたち飼い主を獲物にみたてて練習しているのです。

ねこは困難な任務をすべて1人で遂行するスナイパー

一方、集団で狩りを行うオオカミなどのイヌ科の動物は、群れのメンバーと連携しながら獲物を追跡し、追い込んでゆきます。執拗な追跡によって、獲物が疲れてきたところを、何度もかみついて、出血させて、獲物を徐々に弱らせてゆきます。そして最後に、動けなくなったところを、集団で取り囲んでかみついて獲物を仕留めます。

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イヌ科の動物の狩りには、ネコ科の動物のような瞬発力はあまり必要なく、長距離ランナーのような持久力が必要です。したがって、イヌ科動物の四肢は、疲れにくい筋肉である「赤筋」の割合が高くなります。

また、集団で取り囲んで時間をかけて仕留めるために、瞬殺のハンターのねこのような獲物にがっちりと抱きつく力も、あまり必要ではありません。「いぬ」と「ねこ」の狩りに必要な身体能力は、それぞれのハンティング方法の特徴に応じて特化しています。

しかし、いぬは集団で狩りをするのに対して、ねこは狩りをするための能力を、1匹ですべて持っていることを考えれば、身体能力のポテンシャルは、「ねこ」のほうが断然すぐれていると考えてもよいでしょう。

いってみれば、困難な任務をすべて1人で遂行するスナイパー「ゴルゴ13」と同等、あるいはそれ以上の能力を、「ねこ」は持っていると言ってもよいのではないでしょうか。

山根 明弘 動物学者

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やまね あきひろ / Akihiro Yamane

1966年兵庫県生まれ。西南学院大学人間科学部社会福祉学科教授。理学博士、生物学者。専門は動物生態学、集団遺伝学など。1989年九州大学理学部卒業。国立環境研究所、京都大学霊長類研究所、北九州市立いのちのたび博物館を経て現職。福岡県・相島にて、7年間にわたるフィールドワークを行い、ねこの生態を実施。著書に『わたしのノラネコ研究』、『ねこの秘密』などがある。

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