「企業倒産の激減」をポジティブに見る人の勘違い 2021年の倒産件数「過去3番目」の低水準だが…
さらに大きな3つ目の問題があります。それは「倒産激減」が、産業構造の高度化を妨げてしまうことです。
中小企業庁によると、2019年の日本企業の開業率(=その年に開業した事業所数÷全事業所数)は4.2%、廃業率(=その年に廃業した事業所数÷全事業所数)は3.4%です。開業率14.6%・廃業率11.6%(2016年)というイギリスなど欧米諸国と比べて、開業率も廃業率も極端に低いのが実態です。
実は、廃業率と開業率は、大いに関係があります。経営環境の変化に対応できない企業が「ちゃんと」廃業すると、そこに滞留していた経営資源、とくに人材が変化を捉えて生まれた新しい企業へと移動します。これが欧米の「多産多死」経済です。
一方、延命措置で廃業をさせないと、そこに人材が滞留し、新しい企業がなかなか生まれません。これが日本の「少産少死」経済です。
アメリカの製造業は、1980年代に日本企業との競争に敗れ、倒産や大規模なリストラに追い込まれました。それにともなって多くの人材がITなど新分野に移動し、1990年代以降のIT産業の隆盛に繋がりました。日本では、延命措置によって新陳代謝が進まず、産業構造が変化せず、今日のアメリカとの絶望的な差になっています。
日本はおしまいなのか?
先日、以上の見解を企業経営者の集まりで披露したところ、参加者の1人から反論されました。
「企業の倒産をもっと増やすべきというふうに聞こえたが、それはいかがなものか。倒産だけ増えて、新しい産業が興らなかったら、もう日本はおしまいじゃないか」
なるほど、その可能性は大いにあります。しかし、私は日本人の底力を信じています。敗戦ですべてを失った焼け野原の東京で、終戦から1年足らずの1946年5月7日にソニーが誕生しました。楽観的かもしれませんが、今回も自然に任せておけば、危機をチャンスと捉えるたくましい日本人が続々と出現してもおかしくありません。
「倒産激減」と聞いてほっと安堵するか、低賃金・デフレを温存し、産業構造の高度化を阻む重大な問題と捉えるか。日本の将来を左右する大きな分岐点なのです。
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