「企業倒産の激減」をポジティブに見る人の勘違い 2021年の倒産件数「過去3番目」の低水準だが…
今のところ、国民やマスコミからは、政府の「やりすぎ」への批判は、ほとんど聞こえません。倒産件数が減った結果、2021年の完全失業率は平均2.8%(直近の12月は2.7%)という低水準になりました。「倒産が減り、失業者が減り、良いことずくめじゃないか」というのが一般的な認識でしょう。
倒産激減の「悪しき側面」
しかし、私は「倒産激減」には3つの問題があると考えます。
第1は、低賃金の温存です。
日本の法人の65.4%が赤字です(国税庁、2019年度)。政府が昨年5月に公表した調査結果によると、ゼロゼロ融資の実施件数は日本政策金融公庫だけで84万件、持続化給付金は424万件、雇用調整助成金は334万件に及びました。つまり、421万社と言われる日本企業の相当部分が、政府の支援でなんとか延命しているわけです。
先の安倍政権も現在の岸田政権も、企業に大幅な賃上げを要望しています。ただ、こうした「今を生きるのがやっと」という企業が、大幅な賃上げをできるでしょうか。
北関東の小売店S社(従業員25名)の経営者は、次のように吐き捨てます。
「政府が要望するのは勝手だけど、現実にどうかって話です。当社は何とかギリギリ黒字を確保できていますが、それでも1円・2円の価格差で競合他社と争っている中、時給ベースで数十円の賃上げをするのは、容易ではありません。まして赤字の会社だと、『賃上げって何のことですか?』という感じじゃないですかね」
S社のように賃上げが困難な企業にも、多くの従業員が働いています。国が限界的な企業を延命させることは、労働者が賃金が高い別の企業へと移動することを抑制し、低賃金を温存してしまうのです。
第2は、デフレの深刻化です。
先の安倍政権は「デフレは貨幣現象」という認識の下、2013年から世界でも類を見ない異次元の金融緩和を実施しました。しかし、10年近く経ってもデフレ脱却が実現していません。デフレは貨幣現象ではなく、実体経済の現象だということでしょう。
たとえば、ある商店街に10店が営業していて、これから商圏の人口が半分に減るとします。需要の減少に合わせて、店の数が半分の5店に減るのが自然な流れです。しかし、どの店の主も自分が潰れる5店にはなりたくないので、何とかお客様を呼び込もうと値下げ競争で頑張ります。
競争に敗れた店が商店街から姿を消し、最終的に5店になるまで、供給過剰の状態と値下げ競争が続きます。これが、人口減少が著しい地方でデフレが収まらない基本的な構図です。
ここで、政府が企業の延命のための支援を強化すると、本来は淘汰されるはずだった5店が淘汰されません。そのため、供給過剰が解消されません。限界的な企業の温存は、デフレをさらに深刻化させてしまうのです。
近年、低賃金とデフレが日本経済の大きな問題としてクローズアップされていますが、限界的な企業を延命させることが、こうした問題を温存し、深刻化させているのです。
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