新たな極右大統領候補を生み出したフランスの病 エリートを嫌い、移民を嫌うゼムールとは何者か

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こうした極右の考えが、民主主義の祖国フランスから、それも既存の極右勢力ではないところから起こるというのは、フランスが病んでいる証拠でもある。4年前から続く黄色いジャケット運動、そしてワクチンパス反対運動、そして相次いだロックダウンと、国家による規制によって民衆の生活が病み、怒りが爆発寸前に達していることは確かである。

どこかに救いを求めたいとしても、右派も左派も、新自由主義とグローバリズムの中にあり、民衆の声はなかなか届かない。前回の大統領選でこの声を代弁したのが、極左のジャン=リュック・メランションと極右のマリーヌ・ル・ペンであった。今回それに彼が加わったというわけだ。

極右連合を呼びかけるが…

しかし、大統領選で彼が勝つ可能性はないだろう。彼の議論は、あまりにもノスタルジックな議論だからである。彼の嫌う移民労働者の投票は大統領選にとって重要である。一般の中間層は彼のナショナリズムの危うさには辟易している。いったい、移民でないフランス人、教会に行くフランス人、祖国愛を持ったフランス人など、どれほどいるというのであろう。

フランスは国民投票によって大統領を決める。最終的には、多数派が勝利する。それを知っているゼムールは、ル・ペンとの極右連合をもちかけている。どの候補も多数派になれない状況で、すべての候補が左派連合、右派連合、極左連合を組む可能性がある。結局、第1次選挙で2人の最終候補にたとえ残れたとしても、決戦投票で人々は安定したフランスを選ぶ。となると、マクロンの可能性はまだある。ただしサルコジ大統領の時代、教育大臣としてやり手であった女性候補で親日家のヴァレリー・ペクレスの可能性もある。マクロンとゼムールと騒いでいる間に、漁夫の利を得るかもしれない。

いずれにしろ、ゼムールはもっぱら台風の目である。一方マクロンにも、元首相のエドゥアール・フィリップが出馬すれば、彼の票が食われる可能性はある。マクロンの5年間は、これといった業績がないこともあり、ほかの大統領を望む声は大きい。となると、2017年同様、最後まで混迷が続くのであろうか。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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