新たな極右大統領候補を生み出したフランスの病 エリートを嫌い、移民を嫌うゼムールとは何者か

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彼が人々の話題をさらったのは、彼の議論がエリートからフランスを守るという極めて単純明快な議論だったことである。フランスのグローバル化を批判する集団には、極左集団もいるが、フランスの移民政策を批判し、ナショナリズムを誇張する点では、彼の考えはまったく極右勢力と一致している。

彼は、この『フランスの自殺』というショッキングなタイトルの本で、タブー視されてきた問題、フランスにとってグローバル化は必然であるという議論を批判したのだ。この本は、たちまち話題になり、たびたびマスコミの注目を浴び、いつのまにか時代の寵児、そして次第に極右の代表的人物となっていったのである。

2021年8月から9月にかけては、一時期その支持率は20パーセントを超えていた。その勢いは少しずつ落ち、2021年11月24日の予備調査の時点では、15パーセント前後にまで落ちた。極右の代表マリーヌ・ル・ペンの23パーセントさえも下回るようになった。

トランプに似た「貧しい民衆」擁護

しかし、注目すべきは、この2人の極右勢力を合わせるとなんと38パーセントもあることである(2022年1月末の支持率は30パーセントに落ち、減少傾向にあるが)。

ゼムール旋風が起きたのは、彼のアルジェリアのユダヤ系という目立つ顔立ちと、ずけずけとものをいう自信たっぷりのものいいにある。誰も、口に出すことがはばかられる議論を展開したことが、注目を惹いたのだ。

彼の敵は明快だ。グローバリゼーション、人権、民主主義、移民などを進めてきた、フランスのエリートたちである。彼らは具体的には、学者、大企業の資本家、労働者、国営企業の労働者である。それに対して、彼が擁護するのは、フランスの貧しい民衆である。6年前のアメリカのトランプ前大統領に似ている。

2021年秋、彼は『フランスは自らの弔辞など述べたことはない』(La France n’a pas dit son dernier mot, Rubempré)という本を大統領選に向けて出版した。その冒頭で彼は、バルザックの『ゴリオ爺さん』の主人公ラスティニャックの最後の言葉、「今度はパリと俺たちの勝負だ」で、書き始めている。19世紀の主人公ラスティニヤックはパリの貴族たちに殴り込みをかけるのだが、ゼムールはフランス社会のエリートたちに対して殴り込みをかけるのだ。そして、エリートたちから、フランス国民の主権をとりもどすのだと主張するのだ。フランス革命のように、貴族たちに挑戦するのだ。

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