石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? これを読まずに日本の未来は語れない
当たり前といえば当たり前なのだが、消費地におけるガスのコストは汲み上げコストだけでないことに、やっと気づかされる。日本のエネルギーコストが高い理由がよくわかる。
本書はこのようにエネルギー問題の素人でもわかりやすいように書き始めるのだが、読み進めるうちに内容はどんどん深く濃くなっていく。まるで油田だ。たとえば石油開発の現代的な発想法は「サンクコストを無視し、ポイントフォワードで、プロジェクトの評価をする」などという説明がある。この文章を読んだだけではなんのことだか皆目検討がつかないが、第4の頭から読めば誰にでもわかるように書いてあるのだ。まさにエネルギー界の池上彰さんなのだ。
ここですこし面白そうな小見出しを抜き書きしてみよう。
これだけでも本書で語られている内容が多岐にわたり、しかもわかりやすく説明しているというイメージを持たれたのではなかろうか。しかし、問題はなぜエネルギーに関係ない人まで本書を読まなければならないかだ。
スコットランド独立騒動は、他人事ではなかった
それは各国の動きを見れば一目瞭然だ。たとえば中国は、尖閣諸島や南沙諸島の周辺でエネルギー開発を強引に推し進めようとしている。現在の日本にとっては領土問題なのだが、いっぽうで中国は石炭の生産・消費大国でもある。日本にとっては環境ビジネスや省エネビジネスの見込み客だ。新疆ウイグルという宗教紛争地を抱える中国は、やがて中東諸国と問題を起こすかもしれない。その中東諸国も国民国家として存続するかどうかすら判らなくなってきている。
北海油田から得られる資金が見込めるからこそスコットランドはUKからの独立を叫んでいた。しかし、スコットランドが独立するとUKの国家としての価値は下がるため、ポンドは下落しドルが急上昇している。その決済通貨であるドルが上がると、日本のエネルギー調達コストは全自動で上昇するのだ。その結果家計消費は落ち込むかもしれない。
それだけではない。燃料価格はドルベースの調達コストと為替の両面で変動する。運送業へのインパクトが非常に大きいため、ネット通販の配送料無料サービスはなくなるかもしれない。通販産業全体に影響がでるだろう。逆にこれらすべてをビジネスチャンスとしてとりこむ企業も出てこよう。「これを読まずに日本の未来は語れない」と帯文をしたためた所以だ。
著者が三井物産に入社したのは1971年という。これほどの本を書き上げることができる作家だ。次作は是非にもIJPCに取り組んでもらいたいと思うのはボクだけではないだろう。IJPC(イラン・ジャパン石油化学)とは三井物産が中心となって進めていた国家プロジェクトだった。奇しくも岩瀬さんが入社した71年に基本合意している。78年には建設工事の85%まで進んでいたのだが、79年にイラン革命、80年にイラン・イラク戦争が勃発。81年には工事現場が爆撃を受けてしまう。IJPCの解散はさらに月日が必要で90年のことだった。
本書がわかりやすいだけでなく、信頼に値すると信じることができる理由はここにある。本物の修羅場を乗り越えてきたエネルギーマンの渾身の一冊なのだ。
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