産業天気図(海運業) 北米航路・コンテナ船の値上げが貢献、撒積船市況も史上最高圏

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今期は海運大手3社とも、過去最高経常利益の更新が確実視される。「絶好調」の最大の要因は、主力のコンテナ船・北米航路の値上げが成功したこと。値上げ交渉は、中国−北米間の活発な荷動きを背景に「こんな水準まで(値上げが)通るのか」という「出来上がり」になった。北米航路の運賃改定は年1回が原則で、今回の運賃値上げは5月以降1年間フルに貢献する。6月こそ例のSARS騒動が響き、一時荷動きは減速したものの、すぐ旧に復し、足元、コンテナ船の荷動きは、川崎汽船で前年比12%増の勢い。価格と数量の相乗効を満喫することになる。
 コンテナ船の値上げは北米航路だけではない。ボリューム的に劣るとはいえ、値上げについてむしろ欧州航路が先行し、累積の値上げ幅は40%。コンテナ船部門は「我が世の春」だ。
 コンテナ船以外でも、不定期船部門のバルカー(貨物船)の船腹需給が逼迫。中国向けに鉄鉱石・石炭などを運ぶ大型のケープサイズの市況が空前の高値をつけ、一時反落したVLCC(大型タンカー)の市況も、戦後のイラク情勢の混迷から再びかま首をもたげている。懸念材料は燃料価格の上昇と円高だ。とりわけ海運3社は為替を1ドル115円から120円に設定しており、110円台が定着すると増益幅が圧縮されることになる。
 会社別の動きとしては、最大の日本郵船はコンテナ船・自動車専用船でトップだが、VLCC、不定期船とも中長期契約が主体であることが”弱み”。中長期契約は市況低迷時には有利だが、現在のように市況高騰時にはメリットを享受できない。また、ダントツの客船部門もイラク戦後に期待したが、客足の戻りが鈍い。しかし、コンテナ船部門は前期比200億円前後の収益改善が見込まれ、予定線の業績が上がれば、増配も射程圏に入ってくる。
 業界第2位の商船三井は、ナビックスなどとの合併で、タンカー、撒積船の船腹が拡大し、石炭や鉄鉱石を運ぶ大型撒積船(ケープサイズ)でも世界最大級の能力を持つ。これらVLCC、ケープ船は、長期契約が主体の郵船とは対照的に、保有船腹のかなりの部分がスポット契約のフリー船。特にケープ船は史上最高値を存分に享受できる位置にある。早々の増配宣言も肯ける。中期計画「MOLネクスト」の下、体質改善を進めてきたが、目標値(2004年3月期連結経常利益680億円)はらくらくクリアしそうな勢い。
 海運業3番手の川崎汽船の、ここ数年の同社のメインテーマはコスト競争力の強化。「CS300」運動を展開し、船費・用船料削減、貨物費の圧縮など180度のコスト見直しを徹底。昨年度は目標200億円を上回る234億円の削減の「実」を上げた。筋肉質になったところに、タイミングよく運賃改定、市況高の追い風となった。同社はコンテナ5500個積みの新鋭船13隻をすでに投入済み。新鋭船投入による能力増、効率向上、そして値上げと、トリプル効果が収益を押し上げている。同社は中間期3円配を宣言しているが、下期4円配へ再増配する公算もある。
 ただし、好事魔多し。騎虎の勢いに乗って、同社は5500個積みのコンテナ船5隻の追加発注に続き、世界最大級の8000個積みコンテナ船4隻を新たに発注。コンテナ船の能力は一挙に30%増加する。これに刺激され、郵船、商船三井も能力増強に走るのは確実。来年度はまだ”持つ”としても、再来年度以降、船腹需給の緩和から再び運賃が反転・軟化することが懸念される。
【梅沢正邦記者】

(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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