「牛の糞まみれの沼」に潜ってわかった意外な世界 ありえないほど美しく、恐ろしい「水中洞窟」

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女性洞窟ダイバーの先駆者であるジル・ハイナース。彼女が見つけた水中洞窟とは――(写真:Pressmaster/PIXTA)
地球内部に広がり、酸素も光も届かず、人間の侵入を拒む空間――それが水中洞窟です。女性洞窟ダイバーの先駆者が死と隣り合わせの危険な冒険の数々を描いた『イントゥ・ザ・プラネット―ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅―』の一部を、抜粋・再編集してお届けします。
著者のジル・ハイナースは、カナダ・トロントで築いたグラフィック・デザイナーとしてのキャリアを捨て、水中カメラマンとしての成功を夢見て、ダイビングリゾートのケイマン諸島に移住しました。「まだ誰も見たことのない世界を見つけたい」という夢を抱いた彼女は、地元住人から聞いた話を基に、自ら水中洞窟を探しに出かけます。たどりついたのは、牛の糞にまみれた小さな沼。この先に、本当に「ありえないほど美しい」世界が広がっているのでしょうか――。

牛に導かれた先には小さな沼

この数週間前の話だ。イーストエンドの住人が、茂みのなかに家畜の水飲み場の小さな沼があるとこっそり教えてくれた。水飲み場の沼は湧き水の場合が多いけれど、この場所はそれ以上の楽しさがあった。池の穴に亀を逃がしたら、同じ亀が後日、海にいたと地元のバーテンダーが教えてくれたのだ。イーストエンドの住人は、内地にある池は地下通路で海に繋がっているに違いないと言っていた。

この噂話のなかに真実があることを祈りつつ、暑さのなか数日にわたって牛を追いかけたが、牛は神話のような池に導いてくれるどころか、私から逃げてばかりだった。それでも、体力が奪われたが辛抱強い追跡が実って、6日目にとうとう、1匹の牛が甘い香りのするホウオウボクの根元の泥の水たまりで足を止めてくれた。

大柄なウシ族のガイドが浅瀬で足を冷やす間、私はバックパックから大きなフリーダイビング用のフィンとマスクを取り出していた。でこぼことした木の根っこのあたりにTシャツと半ズボンを脱いで放り投げ、足を保護するためにネオプレン製のブーツを履いた。露出していた肌を早々と蚊が刺し始めていたので、水の中へと急ぐしかなかった。

小枝と泥が混ざったねっとりとした池の底に足が埋まり、ブーツの片方は危うく脱げそうになった。小枝や葉っぱに覆われた臭う泥水のなかに急いで潜り込んだ。潜るとマスク越しには茶色く濁った水以外なにも見えなかったが、冷たい感覚が足元からじわじわと上がってくるのがわかった。これはサインだ。より深い場所にある水源から湧き上がっている冷たい水に違いない。

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