「牛の糞まみれの沼」に潜ってわかった意外な世界 ありえないほど美しく、恐ろしい「水中洞窟」
それまで一度も人が入ったことのない洞窟では、水がしばらくぶりに動いたとき、大量の沈泥が排出される。フィンも泡も、すべてをかき混ぜる。それはまるで洞窟が感情を持ち、初めての訪問者をいたずらに邪魔し、秘密を暴かれまいと挑発しているかのようだ。洞窟は澄んだ水に人々を誘いこむけれど、人は振り返るまでどれだけ内部を荒らしたかに気づくことができない。
呼吸するたび、洞窟の天井からぼろぼろと欠片が落ちてくる。その一部はノートパソコンぐらいの重量があって、粉々に壊れるものだから、私たちの視界を不透明なものにしてしまう。洞窟の壁と床が見えるのは、汚れと泥のつながりの隙間の、わずかな時間だった。
私のすぐ前にいるはずのポールのライトでさえ、濁った水のなかではぼんやりとしていた。震える手で探索ラインを握りしめ、私はこの未知の洞窟に2人同時に来てしまったことが、正しかったかどうか考えはじめた。
本当に初めて、私は心の底から不安になり、それはきっと自分の受けた訓練や、積んできた経験以上のことをしてしまっているからだった。何度か深呼吸し、ポールの高度な知識が2人を守ってくれると自分に言い聞かせた。
洞窟は危険な女王
下降し続けていると、水が透き通り始めた。私は泥水の向こうに白い石の城が見えたことで少し安堵し、ポールは見知らぬ世界に進むために命綱をほどき続けていた。130フィート(約40メートル)の深さまで到達し、池の底にある細い岩の並びに結びつけた。ここより遠くまで洞窟が続くのであれば、少なくとももう1日かけて探索が必要だ。今日はすでに戻る時間が迫っていた。
私たちは慎重に後退して、白くて細いガイドラインの近くで、簡単なOKサインを出しあった。命綱を引っ張って伸ばさないように、可能な限り同じ程度の浮力を保つ必要があった。もし引っ張って命綱が緩んでしまったら、信じられないほど狭い空間に入り込んでしまうことがある。
それはライントラップと呼ばれていて、出口を見つけられなければライントラップは死の罠(トラップ)にもなり得るのだ。洞窟は危険な女王だ。彼女は、もう一度私に振り返るように、地球のより奥まった場所まで来るように誘いかけてきた。ポールも私の気持ちに気づいてくれたようだった。森への楽しいハイキングは、パーフェクトな1日を過ごしたかった私のアイデアだ。私にとって、汗をかき、泥にまみれる最高のアドベンチャーに勝るものはない。
(訳/村井理子)
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