なぜ日本は沈黙?「子宮頸がんワクチン」の大論点 4月から定期接種化するのに議論盛り上がらず
こうし日本の状況に対する欧米の見方は厳しい。医学雑誌の『ランセット』が2020年に発表した研究では、日本で1994年から2007年に生まれた女子のうち、HPVにより2万6000人が何らかの病気になり、5300人が死亡する可能性があると予想されている。また、同誌は日本の決定を受けて、コロンビアやデンマークでもワクチン接種反対の動きが出た、と批判している。
一方、イギリスやアメリカなどの少なくない国の政府は、いずれもHPVワクチン接種のおかげで子宮頸がんの発症率が低下したと報告している。
例えば2016年からアメリカが開発したHPVワクチン「ガーダシル」を使用するアメリカは、副作用については、CDC(アメリカ疾病対策センター)が「ワクチンを接種した腕の痛み、赤み、腫れ、めまい、失神、吐き気、頭痛」を挙げている。
CDCは、ワクチン接種後に思春期の若者に多く見られる失神を除いて、深刻な割合の有害事象は確認されていないが、ごくまれに(100万人に3人の割合)、あらゆるワクチンに対して重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こすことがあるとしている。
一方、効果については、ガーダシルは成果を挙げているようにみえる。「ワクチン導入から12年以内に、ガーダシルで予防された4種類のHPVへの感染は、アメリカの14~19歳の女性で88%、20~24歳の女性で81%減少した」とされ、男性へのHPVワクチン接種も行われている。
世界ではWHO加盟国の55%が接種を実施
2020年6月現在、WHO加盟194カ国のうち107カ国(55%)がHPVワクチン接種を実施している。107か国の平均的な接種率は、HPVの初回接種が約67%、最終接種が約53%。2019年の日本の最終接種率は0.3%と、99カ国中97番目。韓国は52%。台湾は60%となっている。
日本のような状況からHPVワクチンの接種率が改善している国もある。例えばアイルランドでは、2010年から12、13歳の女子を対象に学校でワクチン接種を行っていたが、2015年、ロビー団体による反ワクチン運動が勃発。2015年には国営テレビが「子宮頸がんワクチンは安全なのか?」と題したドキュメンタリーを放送したことで、反ワクチン運動はピークを迎えた。
こうした中、同国の国家予防接種局はただちに全ステークホルダーに働きかけた。保健、女性の権利、児童福祉、そしてより広い市民社会の分野で活動する35の組織の同盟を結成し、HPVワクチンの接種について啓蒙活動を行なったのだ。この戦略により、ワクチン接種率は2年間で50%から61%に回復した。
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