山形で大逆転狙う「20年売れなかった芸人」の人生 古民家を月100円で借り、畑まで耕す本気ぶり
一方、二人が上京して半年後の2021年4月から、吉本興業の「47都道府県 あなたの街に“住みます”プロジェクト」が始まる。前回、香川県住みます芸人の梶剛の稿でも触れたが、本坊が愛媛県松山市出身(水口は大阪市出身)ということもあって、ソラシドにも声がかかった。
「そのときは、月に1回、ライブで漫才できるか、でけへんかみたいな状態で。穴掘りやら、解体工事やら、肉体労働のバイトばかりの生活で。(住みます芸人の話を持ちかけられたときは)一瞬、『毎日、お笑いの仕事ができるんなら、なんて幸せな生活やろう』『これで、工事現場(でのバイト生活)から逃げられる』と思いました。
けど、東京に出てきて半年も経たんうちの(住みます芸人の)話やったんで、さすがに、もう少し東京に残って結果出したいと思って、断ったんです」
その後、本坊は、前述の梶と武蔵小山でルームシェアを始めるのだが、その半年後、前回でも述べた通り、梶が実家の事情で郷里の香川に帰ったことから、本坊は再び一人暮らしに戻り、肉体労働に勤しむことになる。
過酷なバイト生活をネタにし「プロレタリア芸人」に
だが、この本坊という男、根っからの芸人なのだろう。後に、あれほど逃げたがっていた工事現場での過酷なバイト生活をネタにしたエッセイ、『プロレタリア芸人』(2015年 扶桑社/2021年 扶桑社文庫)を上梓。同書には、当時の本坊はもちろん、彼と同様に〈東京で売れていない地獄芸人〉たちの生活ぶりが、悲哀のこもったタッチで綴られており、面白い。
また本坊のインディーズ時代からの後輩で、ソラシドと同様に2010年に上京し、2017年のM-1で優勝するまで、不遇をかこっていた「とろサーモン」の村田秀亮が2012年から2年間、「プロレタリア芸人」だった本坊に密着。
その日常を撮り続けたドキュメンタリー、「本坊元児と申します」は現在もYouTubeで公開されているのだが、これがなかなかの秀作で、本坊の魅力はもちろんのこと、村田のドキュメンタリー作家としての才能も窺える作品になっている。
一方、本坊がその生活の大半を工事現場でのアルバイトに費やしていた間、相方の水口は「防災士」の資格を持っていたことから、東京23区の小、中学校などが行う「防災訓練」の指導員の仕事で、生活を維持していたという。
「23区の中でも世田谷区は各小・中学校が月1回のペースで、防災訓練やっていましたから、ほぼオールシーズン、仕事はありました。けど、僕らはやっぱり芸人ですから、お笑いの仕事がしたかった。そんなときにもう一度、会社のほうから『住みます芸人やってみいへんか?』っていうお話をいただいたんです。
ただ、最初から『山形はどうや?』という話だったんで、仕事はもちろん、遊びにも行ったことのない、知らなすぎる土地やったんで、僕自身はどうかな……と思ってたんです。が、僕ら基本的に“ニコイチ”なんで、まずは相方の意向を聞いてみんと、と思って尋ねたら、意外にも『行こか』と」(水口)
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