「男性版産休」10月スタート、結局何が変わるのか 育休法の改正、それでも解決しない4つの問題点

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実務上、労働者代表が事業主からの労使協定締結の提案を断ることは難しいと思われますので、結局のところは、少なからずの会社で「労使協定」が締結され、勤続1年未満の有期雇用労働者は育児休業の対象外となり、実態としては法改正前と何も変わらないということにもなりかねません。

また、それ以上に根本的な問題として、有期雇用労働者を中心とした、非正規労働者は、社会保険に加入していない場合も多いです。そのため、産前休業6週間+産後休業8週間の合計14週間、労働基準法上の産前産後休業を取得することはできますが、社会保険加入者であれば受給できる出産手当金(元の給与の約3分の2を補償)は受給できません。

非正規で働く方は、加入条件を満たしていても会社が加入手続きをしてくれない、複数の仕事を短時間で掛け持ちしていていずれの会社でも加入条件を満たさない、人数規模や業種で社会保険の適用自体が合法的に免除されている個人事業主に雇用されているなど、さまざまな事情で社会保険に未加入となってしまいがちなのです。

産前6週間であっても、切迫早産の恐れがあり絶対安静であったり、つわりがひどくて就労できない場合、社会保険加入者の場合は、健康保険から傷病手当金が支給され、出産手当金と同等の所得補償を前倒しで受けることができますが、社会保険非加入者の場合は、無給での欠勤や休職扱いとなってしまいます。

育児休業給付金の落とし穴

さらに言えば、女性の社会進出が進み、さまざまな職業に就いている女性がいます。産前6週間であっても職種や個人差により、従前の業務での就労継続が難しいことは珍しくありません。

この点、妊娠中の女性が請求した場合は、労働基準法上は軽易な業務に転換させなければならないとされています。ですが、中小企業では業務転換自体が難しく、また、法的にも、無理矢理新たに軽易な業務を作り出して配置転換させることまでは求めていないので、最終的には退職せざるをえないことにもなりかねません。

そして、妊娠中で再就職が難しいとなると、基本手当(いわゆる「失業手当」)も受給することができませんので、まさに「八方ふさがり」となってしまうのです。

非正規で働く人が安心して出産や育児を行えるようにするためには、育児休業の取得要件を少々緩和するだけではほとんど意味がなく、産前産後のトータルサポートを考えなければ実効性が極めて低くなってしまいます。

第4の問題点は、育児休業取得時の所得補償である育児休業給付金は、あくまでも「復職」を前提として支給される、という制度設計自体は、法改正前後において変わらないということです。

そのため例えば、多くの方が驚くかもしれませんが、育児休業給付金の受給期間中に、万一、勤務先の会社が倒産や廃業をした場合、本人には何ら責任がないにもかかわらず、復職先がなくなったということで、育児休業給付金は打ち切られてしまうのです。

このような不都合を無くせないものかと、思っています。

今回の法改正により、わが国の育児介護休業法が前進したことは間違いありません。しかし、すべてのパパとママが安心して出産や育児を行える世の中を作るためには、まだまだ進化の余地があるということになるのではないでしょうか。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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