旧式の灌漑設備、農業インフラの未整備や貯水意識の欠如、中間業者の存在、1970年代の「緑の革命」による土地の疲弊、そしてなによりコールドチェーンの未整備がインドの農業をそうした循環にとどまらせています。農産物の約40%が適切な貯蔵・輸送設備がないために廃棄されています。これらは農業が抱える問題の一例でしかありません。
モディ首相はグジャラート州の州首相時代、有料でも安定的な電力を農家に提供し、広範囲な流域開発による治水を行った。新しい技術も積極的に取り入れ、グジャラート州の農業の生産性を向上させた。
モディ政権は、この成功を今度はインド全体に応用させようとしている。国民の多くがモディ首相の食糧経済の近代化策がインドの農業を持続可能な成長軌道に乗せる手腕に注目している。政府は、灌漑事業を含めた農業開発支援や農村金融の拡大、農民に対する技術指導、ITを活用した新市場開発などの支援策を公表。今年度予算は農産物の貯蔵寿命を延ばすために貯蔵庫設置に500億ルピーを割り当てている。
農業振興を強調
9月、ニューデリーで行われた農業調査審議会で、モディ首相は農業振興を目指す立場を「面積と時間当たりの収穫量の向上」、「水1滴当たりの収量増大」、「土壌改良などの技術者を増員する」といった発言により、あらためて強調している。
インドは現在、農家から一定価格以上で農作物を買い取って貧困層に配給するといった制度を行っている。こうした価格保証は、現在のWTOのルールに抵触するために問題となった。なかでも1986~1988年を基準としたWTOの参考価格と政府の買取り価格の差が、国内の食糧総額の10%を超えないとする取り決めに対する違反だ。1991年に経済が自由化され、政府が農業部門への支援の多くを打ち切ったこと、農業金融政策が不十分であったことなどにより、農民の自殺が多発した。こうしたインドの農業と農民の問題は世界の食糧危機に大きな影響を与える可能性もある。
WTOは、農業市場と食糧市場を国際化したほうがインドにとって利益になると分析している。確かに農業の世界市場への開放は、インドの発展に寄与する一面もある。ただ同時に問題にも直面する。多くのアナリストは「先進国はインドなどの発展途上国の農産物を買いたたくだろう」と危惧する。発展途上国での価格自由化は、先進国での農業補助金の停止か削減を伴わなければ、大規模な失業、貧困や飢餓といった深刻な結果を招くというのが通説だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら