牛丼戦争における吉野家苦戦の原因の一端はメニュー展開の乏しさにあるといわれている。その意味では神戸らんぷ亭のメニューも魅力的とは言い難い。しかし、調達力に劣後する状況で安易なメニュー拡大は収益の悪化を招くことになる。そこで、同社は牛丼の味付けのバリエーションという大手が手を出しにくい展開を考えたわけだ。
塩牛丼、味噌牛丼は通常の牛丼とタレ自体が異なるため、全く別鍋で調理・サービスする必要が生じる。ギリギリに設計された厨房・調理器に追加設置するには調整が必要となる。また、厨房のオペレーションも複雑になり、マニュアルを修正し、スタッフへのトレーニングと徹底も欠かすことができない。それを800~1300店舗をかかえる牛丼3強のチェーンが模倣することはほぼ不可能である。
同じ業界のプレイヤーであっても、次元の違う規模で展開している場合、間違っても同じ土俵で戦おうなどとは思ってはいけない。しかし、消費者からは同様の基準で評価されがちなのは確かだ。調達力において規模の経済が働かない神戸らんぷ亭の、価格とメニューにおける魅力不足を補う、「牛丼3兄弟戦略」は、小規模チェーンならではの小回りのきく利点を活かした差別化集中展開だ。
大手同士の戦いの足下で生き残る、大手ができない戦い方に知恵を絞る神戸らんぷ亭の戦略には学ぶところが大きいだろう。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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