フランス大統領選挙、候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析

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ぺクレス氏は多くの大統領を輩出してきたドゴール派の伝統政党の一員で、初の女性大統領の栄冠を勝ち取った場合も、政策面で大きな不安はない。直後に控える下院(国民議会)選挙でも共和党が勝利し、安定した政権基盤を築くことが予想される。

ただ、ドイツ政界を16年もの長きにわたって率いてきたアンゲラ・メルケル首相が引退したのに続き、メルケル後の欧州連合(EU)のリーダーと目されたマクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダシップに対する不安が広がる恐れがある。首都パリが所在するイル=ド=フランス地域圏首長を務めるぺクレス氏は、ニコラ・サルコジ大統領の時代に高等教育・研究開発相と予算相を歴任した経験豊富な政治家だが、EUや国際社会でのプレゼンスは未知数だ。

マクロン氏は議会過半数を失い、EUでも波乱含み

マクロン氏が再選を果たした場合も、2期目の政権運営には不安が残る。前回選挙を前に同氏が旗揚げした中道政党・共和国前進は、大統領選直後の下院選挙を制し、議会の過半数を握った。だが、大統領や政権の支持低迷とともに離党者が相次ぎ、昨年5月には議会の過半数を失った。地方議会選挙でも苦戦続きで、マクロン氏が大統領選を制した場合も、共和国前進が議会の過半数を握るのは困難とみられている。再選後のマクロン大統領は共和党など他党の協力を仰ぎながらの議会運営を余儀なくされる。

フランスでは大統領が主に外交を、首相が主に内政を担当する。欧州やフランスの戦略的自立や主権強化を訴えるマクロン大統領は、EU離脱後の英国領海での漁業権問題や、アメリカ・英国・オーストラリアによる新たな安全保障の枠組み(AUKUS)などをめぐって、他国との対立姿勢を露わにすることも少なくない。何事にも慎重姿勢だったドイツのメルケル前首相に代わり、マクロン大統領がEUのリーダーとしての地位を固める場合、他国や他地域との関係はこれまで以上に緊張をはらんだものとなりそうだ。

こうしてみると4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える。選挙戦はこれから本格化する。今回はどんなドラマが待ち構えているのか、その行方に注目が集まる。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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