JR東社長「運賃値上げ、ローカル線、すべて話そう」 鉄道から小売まで語り尽くす長編インタビュー

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――地上設備を減らすにしても多額の費用がかかります。

そのとおり。コロナ禍が長引くと経営体力がなくなり、そういうこともできなくなってくる。逆に言えば、体力がある今のうちに一定程度進めたい。これまでは首都圏の利益でローカル線を支えるという内部補助の仕組みがあったが、コロナ禍で屋台骨が揺らぐと内部補助もできなくなってしまうというのが現実だ。

むろん、すべての線区を架線レスにできるわけではない。首都圏のように電化設備が効率的に整っていると、地上設備を撤去すると逆に多額の費用がかかる。首都圏はこれまでどおりやっていく。一方で地方は架線レスの方向だ。気動車もできるだけ減らしていく。当社は2050年に鉄道事業のCO2排出量実質ゼロを実現するという目標を持って取り組んでいる。

もっと頭を柔らかく

――鉄道以外の分野における増収策は?

駅構内に設置している「ステーションブース」(撮影:尾形文繁)

個人型ブースなどのシェアオフィス事業は大変評判がいい。収支は公表していないが、稼働率がそれほど高くなくてもペイするので、駅ナカの使い方としてはマッチしている。街ナカでは西武ホールディングスさんやWeWorkさんとの提携も進めて拠点を増やしている。現在300カ所を超えているが、2023年度までに1000カ所を目指したい。

コロナ禍で小売はeコマースのようなバーチャルにシフトしている。当社もそこを強化しなくてはいけないが、アマゾンや楽天と同じ土俵で戦っても勝てるわけがない。当社は当社の土俵、つまり駅を中心としたリアルな場所とバーチャルな場所の組み合わせで勝負する。

たとえば、通販の「ベルメゾン」を展開する千趣会と組んでディズニーグッズをそろえた常設店舗を東京駅に開設した。当社のECサイト「JRE MALL」のショールーム店舗も横浜駅にオープンした。

今までは鉄道、生活サービス、IT・スイカという3つの事業がそれぞれやってきたが、今後はこれらを融合することで新しいビジネスを生み出していきたい。そのためにはわれわれ自身がもっと頭を柔らかくする必要がある。「JR東日本は変わったね」と言われるような人間がもっと出てこないといけないし、そういう人が出てくるためのフィールドも作らないといけない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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