2階建て新幹線や多扉車消滅、「世代交代」の2021年 利用回復は進まず、新たに車内の防犯が課題に

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夏以降に相次いで発生した列車内での傷害事件は、全国の鉄道関係者や利用者に衝撃を与えた。8月6日に東京都内を走る小田急線の上り快速急行車内で、男が刃物で乗客を切りつけ10人が負傷する事件が発生。警備強化など車内安全対策の重要度が高まる中、国土交通省は9月下旬に全国の鉄道事業者と、警備員の巡回や防犯カメラ増強、乗客への車内非常通報装置の周知などといった対策を取りまとめた。

だが、それから約1カ月後の10月31日には都内を走る京王線の上り特急車内で男が乗客を刃物で切り付けたうえで床などに放火、17人が重軽傷を負う事件が発生。列車は最寄りの国領駅に緊急停車したものの、非常用ドアコックが操作されたことで本来の停車位置より手前で止まり、ホームドアの位置とずれていたため車両のドアが開かず、乗客が窓から避難する事態となった。

「防犯」がさらなる重要課題に

再度の車内事件を受け、国交省は複数の非常通報装置のボタンが押され、内容が確認できない場合は緊急事態として速やかに停車することや、ホームドアと車両のドアの位置がずれていても両方を開いて乗客を避難させることを基本とするよう鉄道各社に指示。また、車両の新造時や大規模改修時に車内防犯カメラの設置を義務付ける方向で検討を進める。

小田急電鉄の最新車両5000形車内に設置された防犯カメラ(右上)(撮影:尾形文繁)

事件前から、鉄道各社は防犯カメラを設置した新造車両を導入する例が目立っており、東急電鉄のように従来車両を含めすでに全車に設置した鉄道もある。JR西日本は12月、2023年度末までに新快速と関空・紀州路快速の車両すべてに設置すると発表した。また、今後導入する新車に設置予定の録画タイプの防犯カメラについて、事件を受け機能の向上を検討しているという鉄道事業者もある。

ただ、既存車両への設置については「国の方針も見つつ検討したい」とする事業者が多い。また、防犯カメラの設置が車内での傷害事件の抑止に直接結びつくかどうかは難しい面もある。

鉄道の安全といえば、これまでは列車の衝突やホーム・駅での転落といった「事故」の防止が主な課題だったが、今後は今回のような事件への対策も重要性を増してくるだろう。コロナ禍で事業環境が悪化する中、警備や防犯設備などの費用がかさめば、鉄道各社にとっては負担が増えることにもなりそうだ。

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