志望校を選ぶ際には、ランキングを見ないで選ぶ
――いよいよ、連載スタートですね。1回目の今回は、本格化する受験シーズンに向けて受験をテーマにお話をお伺いします。
受験は、子どもの非認知能力を育む機会にもなれば、反対に弱くしてしまうこともあります。その分かれ目となるのは親子の受験に対する向き合い方です。
今回は、子どもの非認知能力を育む観点からどのように受験と向き合えばよいかについてお話しできればと思います。
まずは志望校選びについて。そもそも、受験というのは学校を選ぶことから始まります。この最初の一歩への向き合い方が子どもの非認知能力に大きく関わってきます。受験というと合否を決めるのは学校なので自分たちは「選ばれる側」と考えがちですが、「どの学校なら通いたいか」を決めて受験するのは受験生です。この「選ぶ側」という意識が非認知能力の育成には重要です。
「なぜ自分はその学校に通いたいのか」という理由付けが子どもの中にあれば、過酷な受験戦争に主体性を持って取り組み、やりたくない時も自制心を発揮して勉強し、大変な時も粘り強く頑張り、回復力でやり遂げることができるからです。
自分が選んで受験した学校だから、たとえどこに通うことになろうとも、その後の学校生活に意義を見いだすことができるからです。
では志望校について、選ばれる側ではなく、こちらが選ぶ側として選択するにはどうすればいいのでしょうか。そのカギは「自分軸」です。
私の話ですが、娘のスカイが大学を受験する際には、学校ランキングの類いをいっさい見ませんでした。通っていた高校からも、大学ランキングは見ないでくださいと推奨されたのです。ランキングを気にすると、ランキングが少しでもいい大学=よい大学=自分が行くべき大学と、「他人軸」で学校を選んでしまいがちです。しかし、ランキングを見ないで決めると、本当に重要な選択肢が見えてきます。「自分にとって大切なことは何か」という自分軸で選択できるようになるのです。
例えば都会に住みたいのか、田舎に住みたいのか、少人数制のクラスがいいのか、大きい講堂でやる授業がいいのか、理系に強いほうがいいのか文系なのか。ランキングを無視したときに見えてくる、自分にとっての判断基準。勇気がいるかもしれませんが、ランキングを見ることはいったんやめてみることをお勧めします。
――なかなか勇気が必要ですね。つい、入れるところという視点で学校を選んでしまいそうです。
そうですね。しかし受験というのは、合格したら終わりではありません。むしろ合格したところからがスタートです。第1志望の学校に落ちて、第2、第3志望の学校に行くことになる場合もあるでしょう。その場合にも、ランキング重視で選ぶとそれ以外に理由がないから子どもにとって通うモチベーションがなくなってしまう可能性があります。
まずは、親子で探索してみてください。学校選びを親子で一緒に楽しみながらやってみる。子どもが好きなことにひも付けて学校を見ると、より子どもが主体的に学校を選び、その先の学びに取り組むことができるはずです。いろいろな学校を見て、選択肢が1つではない、たくさんあるんだということを知ることも重要です。
「近所の公立の学校もあるし、そうでない学校もあるし、いろいろな学校があるんだね。学校って、何が違うんだろうね」「〇〇ちゃんが受験するんだって。どんな学校なのか見てみようか」というように、偏差値ではなく学校自体に興味が湧くような声がけが重要です。
遠足に行くような気分で学校見学に行ったり、オンラインで学校のことを調べてみるのもいいですね。「この学校に行ったらこういうことがありそうだよね」と、学校自体や学校生活に興味が湧くように導きながら、子ども主導で一緒に探索して、子どもの好奇心を導き出すような接し方をしましょう。
受験はただの通過点、合否に重きを置かないで
――ほかには、どんなことに気をつけるべきですか?
親として最も重要なことは、「合否にフォーカスしない」ということです。合格しても不合格でも人生は続いていきます。子どもは合否の先を生きなければならないのです。
そのために重要なことは、受験が終わったあとに、学校生活で何を学びたいのか、何をなし得たいのかということにフォーカスすることです。第1志望の学校に受かったときはもちろん、第1志望の学校ではないところに通うことになっても、今までの努力を認めて褒め、その先の学校生活をイメージできるようにサポートしてあげることが重要だと思います。受験というのは合格するために挑むものですが、合否だけにフォーカスすると、たとえ合格してもそこで燃え尽きてしまう可能性もありますし、不合格になれば、すべての努力が否定されたと感じてしまいかねません。それでは「自分はダメだ」と、自己肯定感をはじめとする非認知能力は下がってしまいます。
ですから、受験では合否という結果ではなく、まずは自分軸での学校選びに始まって、最終的に通う学校が決まるまでのプロセスにフォーカスしましょう。そうすれば受験を通して自己肯定感、好奇心、主体性、レジリエンスやグリットといった非認知能力を育むことができます。それは確実に合否の先を生きる力になって子どもを支えてくれるでしょう。
――自分で選ぶことから始める受験だからこそ、合否にかかわらず子どもは自分の人生を切り開いていけるのですね。
「この地区ではこの学校がナンバーワンだからそこに行く」というのではなく、「なんでその学校に行きたいのか」ということを自分なりに考えて受験するという行為そのものが、非認知能力を育む入り口になります。そのためにも子どもの好奇心を導くような接し方が大切なのです。
好奇心はあまり取り沙汰されていませんが、実は、好奇心は主体性のカギとなるとても重要な非認知能力です。「それぞれの学校って全然違うんだ、面白いね」と、好奇心のタネを見つけて、そこから探究学習をするように学校を選ぶプロセスに入る。そうやって受験に臨むことができれば、受験勉強そのものが、非認知能力を育むプロセスになります。受験という体験を、単なる学校への入学だけではなく、子どもの成⻑にとってプラスの体験とするためには、「主体的に」受験に取り組むことが必要です。
そのためにもぜひ、選ぶ側の意識を持ってくださいね。
(文:松井佐智子、注記のない写真はIYO/PIXTA)