京急、浦賀駅の電車内を「野菜売り場」にした狙い 横須賀市と連携、「本線の終点」観光誘致に本腰

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東京都心や横浜市内から京急線のほかJR横須賀線などを使って簡単に日帰りができる横須賀市は、アクセスが便利な反面、市内に観光目的で宿泊できるホテルが少ないという弱点がある。市観光課の佐々木崇人さんは「日帰りで来やすい面はあるが、昼にハンバーガーを食べ、軍港巡りをして夜は横浜、といった観光客が多い土地柄」と指摘。「ルートミュージアムなどで滞在時間をなるべく延ばし、消費単価を上げて観光経済に波及させなくてはいけない」と強調する。

12月3日には三笠公園近くの市有地を活用して誘致した「ホテルニューポートヨコスカ」が開業。同市は「観光立市」実現に向けた拠点の1つにしたい考えだ。京急も2021年にデビューしたトイレ付きの新造車両を使用し、ルートミュージアムを実際に体験する貸し切り列車を運行して魅力発信に本腰を入れる。

ドック前を出発する実証運行バスの「よこすか潮風ライナー」(記者撮影)

エリア内の足としては、2022年1月23日までの土日・祝日(年始を除く)に実証運行バス「よこすか潮風ライナー」を運行する。リムジンバスの車両を使用し、JR横須賀駅から、汐留、観音崎京急ホテル・横須賀美術館前を経由して、浦賀のドック前、燈明堂入口を結ぶ。

観光客誘致の課題は多い

潮風ライナーには1日乗車券もあり、一般路線バスのように途中のバス停で止まらないため、はじめに横須賀駅近くのヴェルニー公園内にあるティボディエ邸の案内所で行きたい場所を決めておくと効率よく周遊できる。とくに浦賀港の入り口にある燈明堂は、アクセスはよくないが静かに東京湾の眺めが楽しめる穴場スポットで、山上の千代ヶ崎砲台跡も一緒に巡れるので実証運行バスの利用価値は高い。

浦賀港の入り口にある燈明堂はルートミュージアムのサテライトの1つ(記者撮影)

一方、乗降場所が少ないのは同時に難点でもある。起点となるJR横須賀駅の近隣には京急の汐入駅があるが、日中は普通電車しか停まらない。快特が停車する横須賀中央駅で下車すると潮風ライナーの利用に不便になる。浦賀駅前でも乗り降りができないため、京急線との乗り換え利便性の向上が今後の課題と言えそうだ。

また、浦賀エリアはよこすか満喫きっぷが利用できる店舗も限られている。そもそも観光で利用しやすいレストランやカフェが少なく、長期的には休憩ができる飲食・物販を備えた施設が整備されることを期待したいところだ。

歴史的価値がある観光資源に恵まれていながら、それぞれが離れて点在しているために観光客を呼び込みづらい自治体は横須賀市に限らない。よこすかルートミュージアムとその関連プロジェクトは、行政と交通事業者の観光面での連携のヒントを示している。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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