誰もが何か背負っている「四国遍路」を歩く人たち ノンフィクション作家が迫った草遍路の本質

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──彼らを迎え、接待する地元の人たちの存在も大きそうですね。

この本は、先ほどの鵜川さんとの出会いがあって書けた。彼に限らず、みんな深いんですよね。接待する側の人もいろいろ背負ってるんだなと、接する中で気づいた。鵜川さんは「タクシーで回る観光遍路でさえ、何もない人なら絶対にやらないよ」と言っていた。

みんな何かを背負って来てるんだと。別に巡礼して回ったって何も変わりはしない。結局自分が変わるしかない。世話する人たちはそれをよくわかってる。四国遍路は最後に残った逃げ場所、セーフティーネットなんじゃないかと思います。

四国遍路の真実に触れた瞬間

──庇護(ひご)する以上の、何か思いを託す部分もあるのでしょうか?

篤志家というのとは少し違う、身を切っている感じがする。みんな遠回しに、自分たちも助けられている、生かされているって言う。四国遍路は答えを見つけるきっかけで、そこに正解も不正解もない。来る人拒まず、巡礼順問わず、途中でやめて構わないし、何も非難されない。懐の深さがあります。

『四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

帰る家なく、托鉢と接待、野宿だけで何年も何周も遍路をしてきたヒロユキさんの口から「ふと、『これでいいんだ』と思えるようになった。今がいちばん幸せ」という言葉がこぼれた。一流進学校から脱落、精神科病院へ強制入院、ドヤ街を渡り歩く大変な人生を生きてきて、初めてそう思ったって。それを聞いたとき、浄化され昇華されたんだなと思った。四国遍路の真実に触れた瞬間でした。

──全国の路地を訪ねた『日本の路地を旅する』から12年。今回の旅はどうつながりましたか?

前作では遠く青森、東京、山陰、九州など各地の路地と、自分のルーツである大阪の路地とのつながりを感じ、自分にフィードバックし私を追い求めた。とても内省的な旅でした。でも今回の本は、ものすごく外を向いてる感じがします。草遍路の人たちもそうだけど、視線の先にポジティブに生きることがあった。表裏一体ですね。

路地は生涯書き続ける、とは思う。一方で、物書きとして手を広げ、違うテーマを追っていきたい。僕自身が路地に執着している間は、広い意味で人間的にまだ解放されてないのではないか。それに広げることで、路地の違った面が見えてくるかもしれない、そう思っています。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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