誰もが何か背負っている「四国遍路」を歩く人たち ノンフィクション作家が迫った草遍路の本質

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──現代の草遍路の人々を、上原さんはどう受け止めましたか?

僕が会いに行く1カ月前に91か92歳で亡くなっていた幸月さんは、実は12年前の殺人未遂容疑で指名手配中の人だった。凜(りん)とした白装束で俳句を詠みながら回る彼は、いつしか“伝説のお遍路さん”として有名になり、NHKが番組化したことで足が付き、逮捕された。

(うえはらよしひろ)/1973年生まれ。大阪体育大学卒業後、大阪の市立中学校保健体育教師、YMCA水泳コーチ等を経て、ノンフィクションの取材・執筆を開始。『日本の路地を旅する』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。ほかに『被差別の食卓』『石の虚塔』『一投に賭ける』『発掘狂騒史』『辺境の路地へ』『路地の子』など著書多数。(撮影:梅谷秀司)

戦後のどさくさで何度も刑務所に入り、飲む・打つ・買うで身を持ち崩し、最後四国に流れ着いた。もはや死を考えても不思議じゃないのに、自殺なんてこれっぽっちも考えない。旧知の人々に取材し浮かび上がった彼は、めちゃくちゃポジティブな人だった。

実際に出会った人たちも皆ポジティブでした。71歳のヒロユキさんは、福祉の世話にならずつねに野宿。生活保護もいっさい拒否。去年コロナ給付金10万円が出たとき、愛媛でお遍路さんを支援する鵜川さんが彼のために住所と口座を用意して、「振り込まれたら大事に取っときな」と助けた。ところが、介護保険料未払いですぐ押収されてしまった。異議申し立てできるけど、彼にその気なし。しょうがないって。無駄に持ち金があると托鉢(たくはつ)ができなくなるから。

どう生きていくか、考えながら歩いた結果が草遍路

──ご本人がそう決めている?

いや、自分に課してるとかじゃなく生理的に無理ということ。彼に教えを請うて一緒に托鉢をしましたが、心身共に過酷で、自尊心も傷つけられる。托鉢って本当にしんどいんですよ。「だけど金がなくなったらできるんだ。不思議なんだよね」って彼は言っていた。

本の後日談ですが、草遍路の後、定住して年金をもらっていたナベさんは、一時大金が入ったものの、だまされてすぐ失った。彼らはお金が身につかない、残念なことに。ちょっと破滅衝動的な傾向があるんです。そこにポジティブさが同居しているから、人間くさくてすごくいい。

自分自身でどう生きていくか、考えながら歩いた結果が草遍路だった。そこに僕はすごく興味を持った。人の生きるもう1つの道なんだろうなと。当然の権利として堂々と福祉に頼って生きる生き方がある。一方でそれを拒否する生き方の1つがそこにある。草遍路の本質だと思いました。

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