すぐ怒鳴る人を実はまるで恐れなくてもいい理由

行為から他者の本質を見極めることの大切さ

大阪大学で開かれた「平和のための集中講義」において、奥本京子はこういった(「単眼複眼」『朝日新聞』2003年5月23日夕刊)。

「2人1組になり、1人が自分の片手を固く握ってください。もう1人は、それを開いてみてください」

教室の中がざわめいた。しばらくして奥本は言った。

「『手を開いてください』って、言葉で言った人いますか」

奥本はいう。「なぜ力ずくでほどこうとしたのでしょう。平和的手段で紛争を超えるには、対話して相手と関わることや相手への想像力、創造力が必要なのです」。

このエピソードから知られるように、対話をすることで問題を解決することなど思いもよらない人は多い。必ずしも物理的な力を使うことでなくても、問答無用で叱ったりするなど、感情的になって相手を圧倒しようとすることはあるだろう。このような仕方での解決は、たしかに簡単で即効性はあるように見える。

しかし、それが一時的な解決でしかないことは、日常の場面でいくらでも見ることができる。それに対して、対話による問題解決は、手間も時間もかかる。

自明性を疑うところに対話が成り立つ

私の理解では、哲学者であるソクラテスが生涯をかけて行った対話、そしてソクラテスの精神を継承する人が行うべき対話は、既成の価値観を追認することなく、社会や文化の価値観を徹底的に疑うためである。このことは必ずしも絶対的な価値があることを否定するためではない。しかし、価値あることとされていることであっても、最初から自明のものとして与えられているものは何もない。

それゆえ、どんな問題についても、自明なことは何もないと考えて、言葉(ロゴス)を尽くして議論する必要がある。それなのに、当然のことだ、論じるまでもないといって、言葉を封じる人がいれば、これに断固抵抗しなければならない。

村上春樹が、河合隼雄との対談の中で、超常現象というようなものは、小説の中では書くが、現実生活では基本的には信じていないといっている。そんな村上が、戦車や砲弾、飯盒(はんごう)、水筒などがそのまま残っているノモンハンの戦場跡に行き、迫撃砲弾の破片と銃弾をホテルの部屋に持ち帰ったところ、夜中に目が覚めた時、部屋が歩けないくらいに大揺れしていたという経験を河合に語った。この揺れは真っ暗な中を這うようにして行ってドアを開けて廊下に出たら、ピタッと静まった。

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