中国主要メディアから「恒大」の文字が消えた理由 国民のパニック恐れる当局は問題を表向き黙殺

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香港大学新聞学院(ジャーナリズムスクール)で講師を勤める石婷氏は、中国政府の発想とは、次のようなものだと語る。「(問題企業を)救済するつもりだと、なぜ教える必要があるのか。そもそも、救済しない可能性だってあるのだ。今この段階で、手の内を見せるつもりはない」

これまでのところ、この手法はうまくいっている様子だ。石婷氏によると、恒大の今後に対する臆測は現在でもソーシャルメディアで強い関心を集めるトピックであり続けているが、議論に過度な動揺は見られない。

その証拠に、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が10月初旬、恒大問題の世界的な影響に触れて中国に「責任ある」行動を求めたときも、中国版ツイッターのウェイボー(微博)では「ブリンケン氏は恒大に投資しているに違いない」といった冗談が飛び交っていた。

「恒大たたき」から「問題かき消し」へ

恒大問題に対する国営メディアの報道は、危機の拡大とともに変化している。

問題が今ほど注目されていなかった夏の段階では、国営メディアも恒大の経営に警鐘を鳴らしていた。国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)と中国共産党機関紙の人民日報は、負債問題について話し合うため中央銀行担当者が恒大幹部を呼びつけたと8月に報道。国営ラジオ局の中央人民広播電台も、恒大の一部建設現場で工事が止まっており、建設会社への支払いが滞っていると伝えていた。

ところが9月に恒大倒産の噂が広まると、それまで比較的狭い範囲にとどまっていた懸念が一気に世の中に広まった。恒大の投資家、従業員、取引業者が何百という単位で中国の各都市に集まり、返金を迫った。抗議活動の様子はソーシャルメディアで広く共有され、中には抗議活動への参加を呼びかけるユーザーもいた。

こうした動きが過熱する中、恒大は「長引くネガティブな報道」のせいで住宅購入者が遠ざかり、資金繰りの悪化に拍車がかかっているとする声明を発表。

政府の検閲が始まったのは、このあたりからだ。ソーシャルメディアからはデモの呼びかけが消え、抗議活動について報じる国営メディアも事実上ゼロになった。「財新」などの独立系経済メディアは恒大のリスキーな資金調達構造に関する記事を発表してきたが、これらの記事は対話アプリのウィーチャット(微信)上では検閲の対象になった。

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