「処刑」だけではない、戦場記者の受難 ソーシャルメディアで戦場報道は変わった

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しかし、英紙ガーディアンによると、このビデオが放送に流された場合は、「中立性」を欠くとして、英国の通信・放送事業の規制当局である英国情報通信庁(Ofcom)が、調査にのり出す対象になるという。チャンネル4とスノー氏は、これを承知で、規制の対象外のインターネットにビデオを流すことに踏み切った。

これに対し、賛否両論の声が上がった。英紙ガーディアンの若手、ジェームズ・ボール氏は賛意を表明する。「ジョン・スノーにも意見がある」というタイトルのオピニオン記事でこう指摘した。 「ジョン・スノーがガザについて意見を述べたいと思った時に、YouTubeに行かざるを得ないというのはおかしい」。

「感情的反応は読者サイドに任せるべき」

8月26日、イスラエルからのミサイル攻撃を受けるガザ市街地(写真:ロイター/アフロ)

逆に、同じガーディアンのベテラン、デイビッド・ロイン氏は、懐疑的だ。「ジョン・スノーのガザからの訴えは、報道をプロパガンダになり下がらせる」というコラムを書いた。「感情はプロパガンダであり、ニュースは反プロパガンダたるべきだ。報道とは、感情的に反応するのを読者側に任せるべきであり、ジャーナリストを甘やかすものではない」。

ジャーナリストが、報道と自分の感情や意見のバランスをどうコントロールするかという問題は、今の時代に始まったことではない。しかし、ソーシャルメディアで、実際にガザ地区、イスラエル、ウクライナ、シリアといった「戦場」から、非ジャーナリストの市民がリアルタイムで情報を発信しているのと、ジャーナリズムが競合関係になっているという事実は否めない。

例えば、16 歳のファラーという女の子が、ツイッターを通じてガザ地区から刻々と現状を発信し、話題になっている。

「私たちのスクールバスが砲撃された」

「涙が止まらない」

こうしたツイートが数時間途絶えると、心配になってしまうような時代だ。

シリアでもウクライナでも同じようなことが起きている。一次情報がソーシャルメディアであふれているのだ。従って、現場にいる戦場記者がソーシャルメディアを使い、市民の恐怖、怒り、困惑を簡易に伝え、「証言者」たり得たいと思う気持ちを抑えるのは難しいだろう。問題は、どこまで読者、視聴者に真実を伝えるというジャーナリズムの原則を保証できるかということだ。戦場記者らは、過去数十年間になかった激変に直面している。

津山 恵子 ジャーナリスト

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つやま けいこ / Keiko Tsuyma

東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、『AERA』に執筆した。米国の経済、政治について『AERA』ほか、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」「HEAPS」に執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など。X(旧ツイッター)はこちら

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