米英豪の同盟「AUKUS」は核拡散を刺激するだけだ 対中同盟を再編する試みは成功するのか
一方、核拡散の危険性と同盟再編による緊張激化も無視できない。オーストラリアのモリソン首相は、原潜への核兵器搭載や原発への利用を否定している。原潜燃料は核兵器の原料でもある高濃縮ウランで、8隻の原潜には4~5トンの濃縮ウランが必要になる。核拡散防止条約(NPT)体制では、高濃縮ウランは国際原子力機関(IAEA)の査察対象だが、艦船用原子炉は対象外であり、査察は「すり抜け」られる。
反核機運が高まらないか
アメリカはこれまで、イギリスを除き艦船用原子炉技術の輸出を認めていなかった。1980年代には、フランスとイギリス両国がカナダに原潜を売ろうとしたのを止めた。核燃料の移転は核兵器製造につながるという理由だった。オーストラリアには、燃料と一緒に原潜を引き渡す案が有力視されている。
濃縮ウランの移転とは別に、オーストラリアが原潜を保有すれば、原潜に関心を持つイランや韓国、さらに「核保有国」のインド、パキスタンを刺激。これらの国の原潜所有の引き金になりかねない。日本でも、自主国防を主張する側から原潜保有論が出てくることは否定できない。「オーカス」は地域の核拡散を誘発する恐れがある。
菅義偉前首相は2021年9月、モリソン豪首相との会談で「オーカス」への歓迎を表明した。一方、岸田文雄首相は施政方針演説で「核兵器のない世界」を目指すと公約した。核拡散の恐れがある「オーカス」への支持と矛盾しないか。
アメリカ中心の同盟はソ連を「共通の敵」として出発したが、ソ連崩壊で敵を失いその基礎は揺らいだ。冷戦時代、米ソ間には経済交流は皆無だった。一方、中国はグローバルな市場経済に参入することによって急成長しアメリカのGDPの7割に迫る経済大国に発展した。
日米をはじめ世界中の国が中国との経済・貿易・投資を深め、中国が共産主義国家だからとして「敵視」すれば、自国経済は成立しなくなる。相互依存関係が深まる世界で、アメリカにはもはや単独で中国と競争する力はない。だから同盟を再構築し、グループで中国に対抗しようというのが同盟再構築の論理だ。
「前世紀の遺物」とも言うべき同盟再編の試みは成功するだろうか。相互依存が進む経済分野では、日本とアメリカは「経済安保」の論理を前面に出し、サプライチェーン(部品供給網)を抱え込み、中国を排除しようとしている。世界をアメリカ・ソ連の2大陣営に分断した冷戦時代に回帰させる思考だ。
日本では「日米同盟」をすべての前提にした外交政策を、疑いもなく受け入れる世論があり野党も同調する「翼賛体制」が根付いている。しかしアジア太平洋地域で、「オーカス」を無条件で支持するのは日豪両国ぐらいのものという現実は知っておいていい。フランス、ドイツなどの欧州同盟国をはじめ、米中の二択を迫られることを嫌う韓国、ASEAN諸国やインドなど、大多数の国は、同盟再編成には消極的。同盟の行方は多難だ。
当のオーストラリアは非核兵器保有国であり原発もない。「オーカス」は議会承認されておらず、同国でも原潜配備に反対する声が挙がり始めた。反核機運が高まり政権交代すれば。原潜配備を見直す可能性も排除できない。
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