米英豪の同盟「AUKUS」は核拡散を刺激するだけだ 対中同盟を再編する試みは成功するのか

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第1は、同盟の広域化と重層化による中国包囲網の強化。バイデンは「オーカス」創設にあたって「21世紀の脅威に対処する能力を最新に向上させる」と、対中包囲強化の意図を隠さない。同時に「アメリカの欧州同盟国をインド・太平洋協力に転換する第一歩」とも述べて、イギリス参加による同盟広域化の意義を強調した。

対中包囲の「広域化」と「重層化」の思考は、トランプ政権が2019年6月1日に発表した「インド太平洋戦略報告」ですでに表れている。報告は、中国と対抗する上で台湾の役割と軍事力強化を重視し、インド太平洋諸国と西欧諸国を「同盟・友好国ネットワーク」に再編成するのを狙っている。詳細は拙稿をお読みいただきたい。

第2は軍事戦略・戦術上の利益。原潜は通常動力の潜水艦より、静音性をはじめスピードと機動性に優れ長期間潜航できるため、探知されるリスクは低い。中国が保有する潜水艦は原潜10隻を含め計56隻。一方米海軍の就役中の潜水艦はすべて原潜で計68隻。このうち太平洋に就役させている原潜は計10隻と数では中国と互角だ。オーストラリアが原潜を計画通り8隻保有すれば、数でアメリカとオーストラリアが勝ることになる。

南北から挟撃、原発輸出の利益も

オーストラリアの原潜はアメリカの原潜と役割分担しながら、(1)台湾への海上封鎖の打破、(2)水陸両用艦の上陸阻止、(3)潜水艦発射巡航ミサイルで陸上目標を破壊、(4)中国の演習に関する情報収集―など「台湾有事」に向けた任務が想定されている。

台湾をはさんで、北からは日本が南西諸島のミサイル基地化を急ぎ、南からはオーストラリア原潜が米英艦隊と共に、中国に睨みを利かす。それが「オーカス」の軍事戦略・戦術上の狙いだ。

そして第3は、アメリカ、イギリスの原子力産業の利益。原潜で使う小型原子炉は、原発用の加圧水型原子炉とほぼ同じで技術的な差はない。アメリカはパーツを現地に運んで組み立てる「モジュール型小型原子炉」を開発中で、オーストラリアのアデレードで組み立てるとみられる。

アメリカも日本も、新規原発建設は国内はもちろん輸出もできないデッドロックに直面している。だが原発用の小型原子炉をオーストラリアに輸出できる展望が開けたことで、窮状を脱する可能性がでてきた。原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」になる。

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