「社内政治」部長より「3年転職」職人が成功する訳 「人生100年時代」は「年齢や肩書き」で威張るな

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一方、僕の知人に、ウェブ分野で広告のディレクターをしていて、3年おきに転職してきた30代後半の女性がいます。なぜそんなに転職するのかというと、自分の人生に必要なものは何かを考えて、知識やスキルを増やしていきたいからだそうです。

広告業界では、実際の事業に携わりませんから、物を売るとはどういうことかを身につけるために事業会社に転職する。コロナでECが盛り上がると、これからECの能力が求められると考えて、ECに強い会社に転職する。

専門学校卒で、高学歴ではありませんが、彼女は自分に自信を持っていますし、どんな会社でも楽しくやれる人です。スキルを身につけることが好きだから、現場でがんばるけれど、特定の社内で偉くなりたいとは思わないとも言っています。

僕は、彼女のことを、見ようによっては「包丁一本」の世界の板前さん、職人だなあと思います。

彼女の場合、ウェブという先端的な業界にいるからこそ転職できるという面もあります。古い産業の一般的な企業では、転職をくり返している人は、人格に問題があるのではないかなどと考えがちですからね。でも、彼女のような生き方がロールモデルになる社会になるといいと思います。

口承とOJTで閉鎖的に技能を伝えるのではなく、オープンなつながりとネットやイベントなどを通じて知識が得られる。そして、現場でさらに技能を吸収することで、その業界におけるスキルのレベルをつねに一定に保ち続けることができる。現代の職人とは、そういうものではないかと思います。

古来日本は「移動する職能集団」だった

日本人は、村社会で、狭い共同体にしがみついて生きているんだというイメージがありますが、実は、そういった固定した村社会という文化はせいぜい江戸時代からのものです。

歴史学者の網野善彦さんがひもといたように、戦国時代以前など、中世の日本は、安定して固定的に生きる農民だけでなく、腕を持った職人たちが行き来するという、移動する職能集団のような形もあったのです。

そのなかで、同じ職人同士が仲良くしていたりしたわけです。大事なことは共同体感覚ですね。自分の力を蓄えることは大事ですが、仲間も同じように大事にする。

広報やPRの分野では、同じ仕事をしている人たちが横のつながりで仲良くしているようですよね。プログラマーもそうしたコミュニティーを持つ典型でしょう。その職能集団のなかで情報交換をしつつ、外の世界のことも知り、転職につながったり、新たな仕事が生まれたりするのです。

これまでは、会社が仲間でした。でも、これからは、職能集団がたくさん存在して、仲間意識を持つ社会へと変わっていくのではないでしょうか。ヒエラルキーの縦のつながりではなく、横の集団でより気楽につきあえる。そのほうが楽しいのではないかとも思います。

(構成:泉美木蘭)

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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